僕たちが出会ったのは暗がりの中。僕以外誰も知らないはずだった廃ビルの屋上。仕事でうまくいかなかった時、何もかもを忘れてしまいたい時、僕は自然とここに足が向いていた。
暗がりの中から空を見上げると、都会の喧騒を突き抜けて大空に満天の星が広がっている。僕は三角座りで小さな光たちを眺めて時すらも忘れる。明日はちょうど休日だから僕は時計を見なかった。
星も消え始め遠くの空が白み出した時、後ろでガタンと大きな音がして、僕は振り返る。僕の予想に反して小さな黒い生き物と目が合った。夜に取り残されてしまったのかと疑うほど暗い毛並み。それを呆然と眺めていると、その生き物は僕のとなりにぴょんと飛んだ。優雅に足をぺたんとつけて、クイっと凛々しく顎を上げる。生き物につられるように、僕も空を見上げる。空が淡い青に染まっていくのを見守った。
しばらくして生き物を撫でてやろうと、下を向くと生き物はまるで最初からいなかったかのように消えていた。
1人で見るはずだった僕の夜明けはあの生き物と共有されたのに、その心が浮くような歓びを共有せぬまま消えるなんて。気まぐれな夜明けの侵入者だ。
『暗がりの中で』
10/28/2023, 12:23:22 PM