夏野

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誰にも言えない秘密


「あ、誰にも言わないでって言われてたんだ。ごめん、忘れて!」

思わず話しちゃった、とちょっとだけ可愛こぶる。
そんな私に彼はすぐに青い顔になった。

「言わないでって言われたこと言うなよ!そして俺に言うな!なんでお前はいつもいつも俺に話すんだよ!?」

声が大きくてファミレスの中での注目を浴びたが、当人は、「俺は聞いてない、聞いてない…」と小声で呟き始めていて気づいてない。
これはいつもの呪文だ。彼にとってのおまじないで、呟けば直前に聞いたことを忘れられるらしい。
私はそれを、とても素敵な呪文だと思ってる。

「ほんっと、そういうところだよ」
「何が?」
「お前がモテない理由だ。ていうか、お前が失恋したから話聞けって、俺を呼び出しただろうが」
「そうでした」

忘れてんのか?若年性健忘症?と哀れんだ目で見られて、とても心外だ。

「なんだってお前の話から、他人の秘密の話になるんだ……」
「なんとなく?」
「人の秘密なんて知るもんじゃないし、言いふらすものでも無いだろ?本当に、もう俺の前だけはやめてくれ」
「努力はしてるんだけどなぁ。で、なに?これが私のモテない理由って、どういうこと?」

彼は嫌そうな顔を真剣な顔に変えた。

「守秘義務を守れないやつにろくな奴はいない」

手をぽん、と叩きたくなるくらい納得した。
「 絶対に言わないから安心してね」と約束しといて、他人にあっさり喋っちゃうような人は信用するべきじゃない。
つまり、私である。

「お前って秘密とかなさそうだよな。全部ボロっと話してそう」
「確かに秘密ってないかも。知られても別に困らないしね」
「本当にお前に話すことだけは、内容に気をつけることにするわ」
「そうして。私、嘘つけないからさ、思わずポロッと出ちゃうと思うし」

そう、警戒するべきは私なのだ。

「てことは、何か秘密があったりするの? 誰にも言わないから教えてよ」
「今の流れで教えるバカはどこにもいない」
「えーケチ」

くすくす2人で笑う。

私は彼に嘘をついた。
私にだって、秘密くらいある。誰にも言えない秘密が。
そして記憶力はものすごくいい方だ。
何もかも覚えてるし、何もかも忘れられない
忘れられないのに、他人の秘密なんて私は抱えていられない。

だから、私はポロッと話す。
“聞いてないこと”に出来る人に。

「また誰かの秘密入手したら連絡するね」

私はにこりと笑い、彼はガックリ項垂れた。



6/5/2024, 4:30:57 PM