彼岸花

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テーマ「ごめんね」

かつて中規模な国で魔法を得意としている一族がいた。

5つそれぞれの一族は得意な魔法を持ち、扱えるのは精霊に愛された者だけであった。

8年前、大国との大きな戦争で魔法を扱える一族はほとんど亡くなり残ったのは小さな女の子だけだった。
その子には魔法の才能が無いと早くから見切りをつけ厄介者として引き取り手がいなかったが遠い血縁で大貴族の家に引き取られた。

そこからの少女の生活は酷いものだった。
貴族の端くれでも何不自由の無い生活をしていた毎日から使用人のように家事労働する日々に変わった。
まるで地獄のようだった。

それから8年の時が経った。
最初は慣れない家事にてんやわんやでこなすのが精一杯だったが要領良く出来るようになり空いた隙間時間で魔法の練習をして腕を磨いた。
仮の家族には決して見られないように気を張りながら。

そしていつもと同じ場所で魔法を使っているとお忍びで来ていた隣国の王太子に見つかった。
少女は何とか誤魔化そうと必死に言葉を探していたが王太子はそれに気にもとめず口を開いた。
「やっと…見つけました。シュトラール家の最後のお姫様」

幼い頃に捨てた苗字を言い当てた王太子に対し、少女は警戒を緩めず質問した。
「失礼を承知で伺います。貴方様の目的はなんですか?」
普通、下の身分の者から話しかけるのは無礼に値するが内容によっては魔法を使わなければならない。
誰かに利用されるのも人形にもなりたくないから。
王太子はこちらの様子には気にもせず答えた。
「この国が有している多くの新緑、炭鉱、広い領土ですね。それを手に入れるのにこれから少々忙しくなりますがこの国を潰す前にシュトラール家のお姫様を探し出し保護する。それが今回の僕の目的です」

何故今更…と思ったが私が魔法を使う所を見られてしまっている以上、この国の王族を通して公爵の耳にもこの事が伝わる可能性がある。少女にとってそれだけは避けたかった。

「あなたは本当のご家族を亡くしてからずっと辛い目に合われてきたんですよね?
調べさせて貰いましたがかなりあくどいこともしている様です。
誰かに潰されるのも時間の問題でしょう。
貴方が自分の人生を歩めるように手筈を整えます。それまで僕に囚われてくれませんか?散々酷い扱いをした方々に見せつけて差し上げましょう?」

王太子は心配そうな表情を見せながらも
どこか楽しそうにしている様にも感じたが
少女はやっと自分の人生を生きられると笑い、王太子に向け殺す勢いの雷を纏った。

「それはとても素敵なご提案ですね。
でももし貴方様がその約束を違えたら私の雷で焼き殺しますのでそれでも宜しければ」

望むところだと王太子は嗤った。

少女は王太子の居る国に迎えられて王太子と仮の婚約を結んだ。
程なくして王太子の国は少女の居た国を侵略し残されたのは彼女の仮の家族だけ。
公爵家の娘は何故突然戦争が起こったのか、貴族が次々と消えていき、王族までもが消えたのに自分達が生き残っている意味すら理解せずにただ喚いていた。

「あー本当にムカつくわ…!どうしてあの大国の王太子様が身分が確かじゃない女と婚約するのよ!?こんなの有り得ないわ」

「まだその事については噂の域を超えない、落ち着きなさい。それにしてもあいつはどこに行ったんだ。仕事を放り出して」

生き残った親子は口々に愚痴を喚いていた。
そこに美しく着飾った王太子と少女が現れた。

「御機嫌よう、お姉様達?お元気そうですね」

親子はポカンと阿呆面を見せたが少女は構うことなく優雅に笑った。
「本当に貴女達って自分の事しか考えていないんですね。それに何故自分達が生き残ったのかも考えていない。本当におめでたいこと」

少女の声を聞いた親子は噛み付くように話し出した。
「お前…今までどこに行っていたんだ!!!王太子様のお傍に居るなどお前ごときが…」
「なんであんたごときが王太子様の隣に居るのよ!?そこは私の場所なのに!?」

喚き散らす親子を冷たい目で見下ろしながら彼女は静かに告げた。
「言いたいことはそれで終わりですか?
あなた方は私に魔法の才能など無い、
妖精に愛されない欠落品だと散々馬鹿にしていましたね。
私は才能が無かった訳では無く、ただ発動条件を満たしていなかっただけ。
公爵、貴方は私のお父様から魔法の発動条件を聞いていなかったのかしら?
それとも忘れただけ?まぁどちらでも構わないけれど」


少女は左手に雷の力を集め親子に向けた。
「ああ…そういえばお姉様に一つだけ死に際に教えてあげる。
貴方が婚約を結びたがっていた王太子様は
私の婚約者になったわ。とても大切にしてくれて今、この上ないほど幸せなの。
だからもう私の人生から消えて下さる?」

「嘘…嘘よっあんたごときが王太子様に選ばれる訳ないでしょ!?
それに血の繋がった私達を殺すと言うの?家族でしょ?」

今まで家族以下の扱いをしてきた癖に平気で家族という言葉を吐いた女に虫唾が走る。
「残念だけど…貴女方の様な醜い人間は家族じゃないわ。
貴女が欲しがったものぜーんぶ手に入れちゃってごめんねお姉様?」

恐怖に怯えた親子に笑顔で雷を向けた少女はつまらなそうに焼かれた死体を見た。


そしてここに用はないというようにその場を去った。


その後王太子と少女は正式に結婚し雷の魔法を扱う王族が長く国を治め、中規模の国の名前はいつしか歴史の地図から消えた。



5/30/2023, 3:13:52 AM