お先真っ暗。
先が見えない。
進むことに疲れてしまった。
帰る場所も捨ててしまった。
何もする気が起きない。
何をしても楽しくない。
なんだか人生のどん底にいる気がしてきた。
「馬鹿言うな。
お前ごときが人生を語るな。
人生はお前が使うには広すぎる単位だ」
どこかから声が聞こえてきた。
私は辺りを見回したが、一面真っ黒で誰もいない。
幻聴か?
だが、その声は私の脳にハッキリと響いていた。
「大体、進むことに疲れたってなんだ?
お前が選んだ道だろ?
お前が行きたいと望んで歩み始めた道だろ?
なんだお前。今更その選択を後悔してんのか?」
違う。私は後悔なんてしていない。
あのまま別の道に進んでいた方がもっと後悔していただろうし。
「無理矢理自分を正当化するのは辞めろバカ。
変に自分を甘やかすから、ムダな自尊心とどうしようもない罪悪感が生まれるんだ」
やめろ。本当にこの道を選んだことには後悔していないんだ。
私はこの道を楽しんで、憧れて……。
好きだからこそ、今俺はここに居るんだ。
「でも、今は楽しくないんだろ?
それって、この道の“終着点”が好きなだけで、この道自体は好きじゃないってことじゃないか。
言っておくが、この道にただ居座ってるだけじゃ、いつまで経っても終着点には辿り着かないぞ。
お前がずっと頼り切っていた、何でもやってくれる親や仲間はもう居ないんだからな」
…………。
「結局、お前は一人じゃ何も出来ないんだよ。
誰かが目標、師匠、そしてライバルにならないとお前みたいな凡人は長続きしないんだ。
無くなったやる気だって、焦る必要が無いから発生しないんだ」
…………。
「いいか? やる気ってのは後から付いてくるもんなんだ。
まずは何か行動しろ。
何もやってなきゃ、そりゃ楽しいも何もねえよ」
…………。
「まずはこの道を選んだ理由を思い出すんだ。
終着点に行きたいからか?
終着点に行ったことによる名誉か? それか報酬か?
この道を進む理由さえ見つかれば何でもいい。
とにかくやれ!」
「黙れ!
こっちだって分かってんだ。
自分が現実逃避をしてるだけなのも。
自分がどれだけ甘えて生きてきたのかも。
そんなに言葉を並べなくても、感覚で理解してるんだ。
正直帰りたいってのも。
心配してくれたのに蹴っ飛ばした親に甘えたいってことも。
でも出来ないんだ!
もう一人じゃ動けないんだ!
誰かに希望を見せて貰わなきゃ生きていけないんだよ!」
……言い切った瞬間、私は気付いた。
さっきまでの幻聴が、全部自分の口から出ていたことを。
ピタリと静かになった視界は、未だに真っ暗なことを。
10/28/2023, 12:29:24 PM