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ごめん。

たったその一文だった。
携帯の画面に表示されたメッセージを見て、なぜかホッとする。

何に謝っているのだろう。
二人の時間を作れなかったこと。
こちらからの連絡に何日も返事をしなかったこと。
デートの約束をすっぽかしたこと。
もう、私のことを大切に思えなくなっているということ。

「ごめん」の三文字で終わってしまう関係だったのだなと、マフラーに顔を埋めた。

ガタゴトという規則的な揺れと、足元の暖房が心地よい。乗客はまばらで、皆が思い思いのことをしていた。
誰もがこちらに興味も関心もない状況に、私も日常の風景の一部なのだと頬が緩んだ。

彼とは五年付き合った。趣味も嗜好も似ている私たちは恋人であり、親友のような関係だった。ぬるま湯のような、そんな心地よい関係に甘えていたのかもしれない。
しかし、セーターにいつのまにかできている毛玉のように、小さな綻びに気がついた時にはもう遅かった。
いつのまにか会う時間は少なくなり、未来を語ることもなくなった。

それでも彼が好きだった。どうしようもないくらいに。
冷え切った関係だと分かっているのに、さよならも言えなかった私はズルい人間なのかもしれない。

だからホッとしたのだ。「ごめん」と彼が言ったとき、「ああ、やっと大切な人に辛い思いをさせずにすむ」と心が軽くなった気がした。

携帯を取り出し、メッセージを送る。
ガタゴトと電車は変わらず揺れている。
きっと駅に着いたら、冷たい風が私の頬を撫でるだろう。
窓の外は暗く、遠くの街の光がぼんやりと光っている。

もうあの人に会うことはないだろう。
私が愛した人。大切だった人。

この悲しさも、悔しさも、寂しさも全て真っ白に覆い尽くしてはくれまいかと、ゆっくりと瞼を閉じた。



雪を待つ

12/16/2024, 12:49:43 AM