夏野

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天国と地獄

獲物がいれば銃を構える。
狙いを定めて、自分の心臓の音しか聞こえないくらい集中して、撃つ。
当たればよし。当たらなければ、自分が死ぬ。
それが自然の中の出来事で、狩人の生活。

狩人だけでは生活出来ないので、自分で店を持ってる人が多い。俺もそうで、喫茶店を経営してる。
寒い日に暖かくて美味しいコーヒーをひとりで飲んでる時、ここは天国だと思う。

「こんちわ、旦那。売上はどうです?」
「よう、クソガキ。見りゃわかること聞くな」
「程々ってとこすかね。あ、コーヒーひとつ」

閑散とした店内に入ってきたチャラそうな男。
いつも通りにカウンターに座った。
同じく狩人で、腕はそこそこ。

「旦那のコーヒーは美味いッスね…生き返る…」
「それは良かった」
「旦那あての仕事、預かってきたんです。ほんとこの世の中、腐ってません?」
「いつ?」
「明日ですよ。全く、こっちの準備時間は考慮されてないのも腹立つ」

チャラい男が持ってきた封筒を出した。受け取り中身を確認する。

「明日、店頼んでもいいか?」
「はいはーい。頼まれます」

封筒の中は、なんの変哲もない依頼書と写真が1枚。
殺人依頼書。本当になんだって、こんな物騒なものがこの世の中にあるのだろうか。

狩人は獣を狩る。
依頼書が届く度に人間も獣のひとつなんだろう、と思う。

街中で隠れてターゲットを待つ。
現れたターゲットに狙いを定めて、心をむにする。
当たればよし、外せば自分が死ぬ。

音もしないまま銃弾がターゲットを貫通して、ターゲットが倒れてどこかから悲鳴が上がる。
その悲鳴を聞く度に、この世界は本当は地獄だな、と思う。


5/28/2024, 2:33:22 AM