夏野

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正直

学校、というものに憧れたことがある。
幼稚園は通ったが、小学生は一度も行っていない。
毎朝、ランドセルを背負っていく子供たちが、ちょっーとだけ羨ましかった。

「今日の運勢っと。ふんふん、なるほどね。ママは今日は三時から六時までお仕事するわ。夕食はみんなどうする?」
食べるなら作るわよ、と占い道具を片付けながら、母は部屋を見回す。

「今日も政治家先生との会食があるから、俺の分は不要だ」と、スーツのネクタイの位置がいまいち決まらない父が、ネクタイに奮闘して顔を顰めている。

「ふっふ、私は今日家で食べます。今日は通常のお勤めだけですから」と父を見て兄が上品に笑う。
そして僕も「僕も家で食べるよ!」と笑顔で答えた。

母は占い師で、父は呪い師で、兄は祭司で、僕はいわゆる霊媒師。
近所でも有名な“怪しい一家”。
唯一まともそうな母は気まぐれに街頭に占いをしていて、毎日自分の一日の行動を占って、1番いい時間帯で動くようにしている。
僕は占い師はみんなそうだと思っていたが、実は違うらしくてびっくりした。

父は呪い師で、何かと言われれば呪いを生業にしている。良い呪いも悪い呪いも掛ける、とは父談。
政治家の顧客が大半らしいく、それを知った僕は世の中は物騒だと思った。

兄はどうも神様が視えるらしい。
あまり聞いてはいないが、神隠しにあって、かなり危険だったという。
だから良心的な神様に守ってもらうのだと、どこかの司祭になった。
祟られるのは嫌だから、兄の神様について僕は聞かないことにしている。

そして僕は幽霊ばかり見て、変なことばかり言う子供だった。霊媒師という分類になる。
幼稚園の頃、見えない友達ばかりを増やして、周囲の子供たちに気味悪がられまくった。
結果的に僕が小学校に通えなくなった原因である。

なにせ、幽霊さんは沢山いる。そして見知らぬ単語を僕に教えて、僕はつい口に出して、周囲の大人も子供もドン引かせる。
ポルターガイスト的なことも何度かあり、僕と同じ学校に通いたくない、という子供が続出した。

いま僕は心霊現象研究協会で個別指導を受けている。
普通の小学校に通ってみたかった気持ちはもちろんある。
けど、僕は正直、家族の仲間外れみたいにならなくて良かったと思っている。

過保護な幽霊さんたちも沢山いるしね!


6/2/2024, 3:42:07 PM