「わっ、」
強い風が私の頬を冷たく刺す。
「もうすっかり冬だね」
乱れた髪を直しながらぽつりと零せば「そうだね」と彼の穏やかな声が降ってくる。
「もうあっという間に卒業だ」
年が明けたら卒業まで一気に時が過ぎてしまう。解放感よりも寂しさの方が勝る。私は地元に残るけれど、彼は県外に出るのだ。毎日のように顔を合わせていた幼馴染でも、これから頻繁には会えなくなるだろう。
「寂しくなっちゃうな」
「……手紙でも送ろうか?」
冗談めいた口調で彼が言った。目にはからかいの色が滲んでいる。思わず吹き出すように笑った。
「今どき手紙?!」
「続かないかな、君は筆無精だからね」
「もう!……ねぇ、これからも連絡していい?」
「もちろん。暫くは忙しいだろうけど、落ち着いたら遊びに来なよ」
彼が行く県は都会的で観光地や名物が沢山あるのだ。魅力的なお誘いだった。
「やった!どこに行くか、調べなくちゃ」
卒業してしまえば、離れてしまう縁だと思っていたけど、”これから”について考えたら寂しさが無くなるようだった。
「気が早いなぁ」
「だって、今からすっごく楽しみなんだもん!」
嬉しさのままに駆け出す。
背後で彼が笑ったのが分かった。
強い風が吹いた。今まで胸に巣食っていた憂いは無く、木枯らしも私たちの背を押す追い風に感じる。
これから来る冬が、春が、待ち遠しい。
1/17/2024, 10:38:36 AM