入夏

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産まれてからずっとこの大きな屋敷で暮らしてきた、手を鳴らせば執事やメイドがすぐ飛んでくる。
学校へは通わず、専属の家庭教師を付けられて一般常識から一切を学んだ。

欲しい物はどんな物だろうと手に入り、蝶よ花よと育てられ何不自由無く育ってきた。

所が、大事に育てられ過ぎて外への関心が一切無く、当主が学校へ行くように進めるが撃沈、全てを屋敷の内部で済ませる形に収まっていたのだ。

だが、今やご令嬢も15歳になり気持ちに変化が現れた。

それは天気の良い日に敷地内の庭園で寛いでいた時だ。屋敷の塀の先に二人組の女子の会話が聞こえて来てからと言うもの、人生で初めて学校生活に大きな憧れを抱いたのである。

『ねぇ、佐伯。そろそろ私も高校生に上がる歳よね?』

「はい、左様でございます。」

『友人と呼べる存在が一人も居ないのも退屈だわ。それに学校生活という物にも興味が出て来たし…』

「ですが、学校へは行かれなくても家庭教師が居りますので、何ら心配は無いかと…」

『勉学に関しては問題無いかもしれないけれど、同学年ぐらいの方と比べたら、私には人生もそれに恋愛だって…経験が足りて無いと実感したのよ!そうだわ、行きたい学校をリストアップしてお父様に伝えなきゃ…』

思い立ったら吉日とばかりに自室に向かって駆け出した。

「やれやれ、お嬢様もやっと外の世界にご興味が出て来て私も一安心ですよ…」

佐伯と当主で仕込んだ数々の作戦が今やっと花開いたようである。

8/9/2023, 7:54:02 AM