【好きな本】
「好きな本かぁ。私、本を読まないから分かんないんだよね」
学校からの帰り。歩道を二人が歩いている。彼女は続けて話す。
「アニメとかなら好きなのあるよ。『ぼっち・ざ・ろっく!』とか、『薬屋のひとりごと』とか、『SPY×FAMILY』とか好きだなぁ」
「そうなのか。読むのって疲れるよな。アニメの方がキャラの姿や声がよくわかる上に疲れない」
「そう、わざわざ本を読まなくても、アニメの方が楽に楽しくなれるんだよね。元気もらえるんだ。逆に本って疲れる。学校でも無限に文字を見続けないといけないのに、趣味でも文字を見続けるのしんどいんだよね。でも、あなたに好きな本があれば読みたいなって思うんだけど……?」
「僕も好きな本はない」
「え、そうなの? こんな質問するんだからてっきりよく読むんだと思ってたけど」
「……書くことを日々意識していると、書くために読んでしまうんだ。あらゆる本が教科書になってしまって、純粋に楽しめない」
「へぇ、娯楽のための読書じゃなくて勉強になるんだ。でも、勉強を楽しめば良いんじゃない?」
「面白いシーン、優れた表現に出会うと……そうだな……打ちのめされるんだよ……」
「ならさ、どうして好きな本を聞いたの?」
「それは……べ、勉強のためだ」
「ふーん。そうなんだ。私に興味があるわけじゃないんだ」
…………
「いや、君がこの世界をどう見ているのかを……勉強したかったということだ」
「その言い方はガチすぎない? 笑っちゃうっ。興味あるってだけでいいのに!」
「不快にさせたなら、すまないな……」
「ううん、君らしくて、そんなところが面白いよ。でさ、好きな本、じゃなかった、勉強になった本を教えてよ!」
6/15/2024, 3:00:21 PM