海へ
人魚の男の子と女の子の話。
「ひぇ?!」
大きな砂のお城を作ろうとしたら、砂浜に誰かが倒れていた。けれど、足がなくてその代わり尾鰭がついていた。所謂、この人は人魚だった。
ほ、本物‥なんだよね?
けれど足部分を見て、私はそんな疑いの気持ちが消え去る。
「あ、この人怪我してる‥!」
私は"ちょっと待ってて"と伝えて急いで救急箱を取りに行った。砂浜に戻り、消毒液等の道具を取り出して痛々しい傷の治療を行った。
「わぁ‥‥この人顔が綺麗だなぁ‥」
私と同い年くらいの顔立ちだと感じたが、明らかに人間から産み出されたとは思えないくらい美しかった。原石を超えて、もう宝石のようだった。
「ん‥んん!」
「わっ、お、起きたっ‥!!」
人魚の顔に見惚れていると、突然動き出し私は驚いてしまい思わず声を漏らしてしまった。人魚の男の子は私を見るなり目を見開いて、何がボソリと呟いていた。
「◯△×◇‥?!」
「あ、え、えっと‥」
何を言っているか分からず、と言うより喋る言語自体ここの国の言葉ではなく理解することが出来なかった。彼が口を開く度、私の頭の中には不思議でいっぱいだった。
すると、海の方からチャプンと波の音が聞こえた。その方向を見ると、女性が肩らへんまで海面から顔を出してこちらに見つめていた。どうやらその女性も同じ人魚であるらしく、男の子は彼女を見てあちらに向かおうとしていたが、私の姿を見て気遣っているのか少し困った様子になっていた。
「私のことは大丈夫だよ! 貴方が無事に帰れるなら! 兎に角無事で良かった!」
私の言葉の意味など分からないかもしれないが、取り敢えず言いたい事を伝える。すると、何を思ったのか人魚の男の子は私をぎゅうっと抱きしめた。
「っへぇ?!」
一体何が起きているか分からず、空いている手をどこにやったらいいか慌ててしまった。そして、男の子は私の顔を見てそっと頬にキスをした。
ボフンっと私の顔は真っ赤に染まり更にパニックになった。その様子を見て男の子はクスクスと笑っていった。優しい表情を浮かべている彼にドキリと胸が高鳴った。
それから、男の子は海の中にゆっくり入っていった。
「気を付けてね!!」
私が大きな声でそう言うと男の子は振り返って、大きく手を振った。人魚の男の子は女性の方に向かいそのまま海の中へと潜っていった。
8/23/2023, 12:04:12 PM