【時を告げる】
「ねぇ、時間ってなんだと思う?」
「えー、なに、急に」
シズクは顔をしかめた。いつも一緒にいるカナは時々難しい話をする。
「いいから。時間とは?」
「んー…」
シズクは頭をひねった。時間。時間を刻むのは時計。では時計がないと時間は存在しないのか?否。時計は人間が作ったものだけど。それがなくても、時間という概念は存在する。
「元々は、日時計とかで時を刻んでたわけだから…。太陽の動き、つまり地球の自転によって刻まれているもの?ということは、時間とは、天体の動きのこと…?」
話しながらどんどんわけが分からなくなっていく。
「なるほど。でもそれだと、光が届かない場所では時間が存在しないことにならない?深海に生息するウミユリは、毎年同じタイミングで性細胞を放出するみたいよ。」
(性細胞…?)
聞き返したいのはヤマヤマだが、余計ややこしい話になりそうだ。
「光だけが時を刻んでるわけじゃないってこと?」
「そう。というか、結局、1秒の定義って、昔は天体の動きを元にしてたけど、今は原子の動きを元にしてるらしいよ。」
(え…。何が言いたいんだろう。)
シズクはちょっと肌寒くなってきた季節には少し冷たすぎるシェイクを吸い込んだ。
「私さ、カレンダーとか時計以外の、『時を告げるもの』を大事にしたいな、って思うの。」
「例えば?」
スウウウウウウウ。
カナは突然両手を広げて息を吸い込んだ。
「これ。この匂い。この温度。夏の終わりを告げるもの。」
確かに、近頃夏服では夕方は寒く感じるようになってきた。
「寂しいし、ちょっと焦っちゃうね。あっという間に今年が終わっちゃう。」
17歳の夏が終わるのか。確かに、辺りを見回せば、時を告げるもので溢れてる。熱を失った青葉、乾燥した空気、空は高くなってるし、虫の声も違う。
「えー、どうしよう。」
シズクは急に不安になってきた。
「なに、どうしたの?」
「私何もしてないよー。」
「シズクが?いろいろしてきたでしょ、成績だってずっとトップなんだし。」
確かにそうだけど。ただ授業でやった事を全部覚えてテスト用紙に書くのが得意なだけだ。シズクと違って、カナはいろいろ自分で考えていて、もっと大人に見える。
「焦ったってしょうがないよ」
カナが笑う。まだストローを噛む癖が直ってないらしい。
「そうかなぁ。」
時を、告げる。ねぇ、なんのために?
9/6/2023, 3:08:04 PM