焼き付いて離れない情景が、夏の陽炎と過るのはどうしてだろう。
紅葉の鮮烈な赤よりも、積雪のまばゆい白銀よりも、視界を埋める桜の色よりも、透明でいびつな陽炎の揺らめきが、重たい湿度と張り付く灼熱を呼び起こしては蝉時雨を連れてくる。
それは大抵、影を差した記憶の映像だ。
うつむいた向日葵。人のまばらな海岸。幼い子供の手を引く大人の背中。耳鳴りとアスファルト。
コントラストの高い青色、あるいは淡い夕暮れの色に真っ黒な影が差している。それは夏の情景か、思い返した記憶の疎ましさか。
物悲しさをノスタルジーだと決めつけて、沸き立つあぶくのような追憶を手の届かないところへしまいこむ。
脳の奥、裏の裏の裏。どこまでも深いところへ。
二度と汚してしまわぬように、二度と失ってしまわぬように。
美化も風化もさせないように。
/脳裏
11/9/2024, 3:52:29 PM