狼星

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テーマ:冬晴れ #54

「まだまだ寒いなぁ…」
私は手を擦って縁側に座った。
鳥たちのさえずりが遠くから聞こえる。
「こんな日にはやっぱり、熱いお茶が飲みたくなるねぇ…」
私は横においた湯呑に入ったお茶に手を付けた。
「はぁ……。あったかい」
私は湯呑を包みこむとふぅ~っと息を吹き、湯気を飛ばす。ふわふわと舞う湯気が私の視界を曇らせる。
ズズズッと音を立てて飲むお茶は、格別だった。

『なんや…。ひーちゃん。やっぱりここにいたのか』
そんな声が聞こえた気がして、思わず横を見る。もちろんそこには誰もいない。
「おばあちゃん」
私は呟いた。ひーちゃんと私のことを呼ぶのはおばあちゃんだけだった。私の名前は玉城(たまき)なのに、おばあちゃんはひーちゃんと私のことを呼ぶ。
鳥の雛のような大きい目をしているから、とおばあちゃんは言っていた。
そんなおばあちゃんはもうこの世にはいない。
半年前、この世を去った。でも私はまだ、その現実を受け止められずにいた。
まだおばあちゃんが近くにいる気がする。
まだおばあちゃんは生きていて、ひょっこり出てくるんじゃないかって思っている。
「あ、今日は冬晴れやなぁ…」
私は独り言を大きく呟く。
『冬晴れ』という言葉もおばあちゃんに教えてもらった。おばあちゃんは私のこと見てくれているんだろうか。こんなに者家の殻になってしまっている私を…。
私はもう一度、お茶をズズッと飲む。
視界が曇った。
全く、湯気は私の視界を曇らすのが好きやなぁ…。

1/5/2023, 12:38:53 PM