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お題「旅路の果て」


7歳から13歳まで両親の仕事の都合で
祖父母の家に父母と離れて暮らした。

母が寂しくないようにと柴犬を飼ってくれた。

白い子犬は、クンクン鳴いて私に甘えてくる。
いつも私と一緒。
私の大事なともだちになった。
私は、11才だった。

小学校から帰ると散歩に連れて行く。
田んぼしかない田舎町、畦が散歩道。

ある時、
誰もすれ違う人などいないから
首輪からリードを外し自由に走らせた。
犬は、大喜び。
私の前を猛ダッシュで畦道のずっと先まで
駆けて行く。
子供の足では、追い掛けられない。

姿が見えなくなると帰って来ないかもと
急に不安になって、泣きたくなった。

すると畦道を私に向かって犬が戻ってきた。

私がちゃんといるか確認しに来たようだった。
私の足にはね上がって嬉しそうにまとわりつく。

すぐ犬を抱きしめリードを着けた。
犬に与えた小さな冒険は、私の不安で
これっきり。
以後、散歩は、決してリードを外さなかった。

犬は、2年後、祖父が散歩に連れて出る直前、
リードが外れ逃げ出し車に轢かれ亡くなった。

犬の心に畦道を自由に駆けた楽しい記憶があったのだ。
きっと車に轢かれなかったら、また嬉しそうに戻ってきたはず。
締め付けられる悲しみに号泣した。

私は、13才。
生まれて初めて、愛しい大事なともだちとの
別れを経験した。

私は、高校受験のこともあり、
犬と別れたその年、両親の元に戻った。

あれから、祖父母、父、妹、
そして先日、母との別れを経験した。

人は、人生の長い長い旅路で
いくつもの別れを迎える。

大人になった私は、犬との別れの時のように
おんおん声をあげて泣くことはない。

鈍い痛みが心の隅で疼くのをたえるだけ。

旅路の終わりは、どんなだろう。

虹の橋をあの犬が駆けつけてくれるだろうか。

1/31/2023, 1:57:56 PM