日記というのは、何処か心を動かされる。
ふと思うに、何かあった事をそのまま在りのままに書くのが日記であろう。ではこれはなんだ。手元に置かれたこれは。携帯?違う。私の膝元にあるこの日記の事だ。
三日坊主ならず、一日すら書いていない白紙の日記。ぽかんと日記だけが私の生活から抜け落ちたのか、存在すらも記憶に残していなかった。開く気も失せ書く気もさらさらないこの日記は果たして利用価値があるのだろうか。
一枚だけ、と思い開いてみる。興味心は私の体を動かすエネルギーとなり、そっと懐かしむように開いた。開いた所が悪かったのか、白紙が映り薄く二枚に重なった紙を不器用な手で捲る。紙に粘着力はないのに、何故こんなにも重なってしまうのか、不思議で仕方ない。
いやいや、そんな事はどうでもいいだろう。私は一頁目へと目を通した。二頁目は勿論何も書かれていない。一頁目こそ、この作品の全てが詰まっているのだ。
ドキドキと、緊張した趣で目線を上へと持っていく。高まっていた気分は早く見たいと私を急かしている。たったの一秒だって無駄にはしたくない。
そこには拙い文字で「何も無かった」と書かれてあった。
明らかに態々書く内容では無い。其処には詰まらなさがギチギチと一分の中に入っている。カッコつけたかったのかいざ知らず、何年越しかのこの日記の文字は感想を応えてはくれない。文字は、生命を持たない。これになんの意味があろうとも、歳をとってしまった私には分からないことなのだろう。若気の至り、と言うやつなのか。いや、違う気がする。
日記から手を離して、下降した気分を何とか上昇させようとそばにあったお茶を一気に喉へ流し込む。水分は体を潤す。気が落ち着いたのか、私はもう一度日記へと手をつけた。何か書いてみようと、思い立ったのだ。
まだ一頁しか使われてない日記は、今の私の気持ちを全て書き記してくれる。となると、今日あったことを思い出そう。片手で散らかった机の上からペンを探しながら、今日のことを思い浮かべる。
もう随分と時が立ったが、一日というのはなんとも短かった。
それならばそうだ、と思いつく。
得意気に私は見つけだしたペンで二頁目へとペン先を付けた。珍しく、字を書くのは何時ぶりか、感銘に浸りながら言葉を濁す。
何も無い、いい日だった。
何時ぞやの私が開く時今度はどんなことを書くだろう。またくだらないと言いそうだ。
1/18/2023, 12:29:36 PM