ももいろぺんぎん。🍑🐧

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No.2 紅茶の香り
「雨、どうしようかな」
僕は近くの服屋さんに行っていた。
だがその帰り道、雨が降ってしまった。
しかもかなりの大雨だった。
スマホを見ると、止むのは夜の8時ぐらい。
今は1時ぐらいだった。
さすがにこのまま雨宿りするのは嫌だし、コンビニとかで傘を買って帰ろうか。
そう考えていた時のことだった。
「すいません、今時間いいですか」
僕がパッと見ると、それはお嬢様オーラむき出しの女の子だった。
一体どこかのお姫様がなんの用だろうか。
僕ははい、と頷くと女の子が、
「実は私、店をやってるんですけど、雨の中たっているのもしんどいと思いますし、来ませんか?」
女の子はニコッと僕に笑いかけてくる。
「どんな店なんですか?」
僕は聞いてみる。
「紅茶が専用の店です!パンケーキとかもありますし、カフェとして捉えてくれて大丈夫です」
女の子は明るい声で答えてくれた。
カフェか……お洒落なイメージがあるな……。
僕はどちらかと言うと色々着こなしてお洒落する人とは程遠い。
裏表もあまりなく、テンションはいつも高く、面白いことをやって人を笑わせるタイプだ。
学生の頃も人気だったが、「○○くんってお洒落だよね」というタイプの人気者ではなく、「○○くんって面白いよね」で人気者のタイプだった。
だが僕も大人になって、お洒落に興味を持った。
少し家に引きこもっているイメージの仕事だから、たまには外出して色々見ているうちにお洒落にも興味を持った。
僕は色々悩んだ末、
「はい!行きます!」
と答えた。
すると女の子はパッと顔を輝かせながら、
「来てくれるんですか!?ありがとうございます!あ、傘ないですよね、これ使ってください」
女の子は持っていたお洒落な傘を差し出してくれた。
女の子はカバンから小さい折り畳み傘を出し、開くと、
「カフェはこっちです!着いてきてください!」
女の子はゆっくりと歩き出した。
僕は女の子に貸してもらった傘を差して、なるべく濡れないようにゆっくりと歩く。
僕は行く途中で聞こうと思ってたことを言う。
「あの、よければ名前を教えてくれませんか?」
「私は愛莉と言います。あなたの名前も教えてくれませんか?」
僕も名前というよりかは偽名を名乗り出す。
「仕事の偽名なんですけど、「雨水 ーAMAMIZUー」って言います。知ってます?」
お嬢様らしき女の子は答える。
「え、雨水さんですか?私、ファンですよ」
愛莉さんは落ち着いた口調で言う。
「え?本当ですか!?」
僕は愛莉さんよりやけにびっくりしながら言った。
「私、家族でカフェをやってるんですけど、父親があなたのことが好きで……それから、伝染して行ったってわけです」
「あー……なるほど……」
そうやって会話をしてるうちに、僕は紅茶の香りが漂うのがわかった。
「もしかして、この近くが愛莉さんのカフェですか?」
「えぇ、その通りです。今日は家族がいるので、色紙にサインしてあげてください」
愛莉さんは少し笑いながらそういった。

僕がカフェの入口を開けると、お父さんらしき人が駆け寄って話してくる。
「愛莉、お客さんか?」
「うん、そうだよ。お父さんが好きな、雨水さん」
するとお父さんは顔を輝かせながら、
「え、雨水さんって……あの雨水さんか!?え、サインしてください!Tシャツに!」
「Tシャツに……?」
僕はすかさず突っ込んだ。
「あぁ、間違えた……えーと、サインして欲しいんですけど、もうここにドーンと書いてください」
僕は愛莉さんのお父さんに招きいられ、お父さんが指さしてる所を見る。
そこには何も書いてない広い壁だった。
え?壁?しかもこんな広いところに?
僕は一瞬戸惑って、またなにか間違えたのかと思い聞いてみる。
「え、壁ですか?いいんですか?」
「はい、壁に書いてください。堂々と。」
僕の耳は間違っていなかった。
とにかく僕は覚悟を決めて書いてみることにした。
手馴れながらも少し慣れていない感じで書く。
書き終わり、遠目で見てみると、結構いい感じだった。
「とってもいいですね!ありがとうございます!父親が喜びます!あ、どうぞカウンター座ってください」
愛莉さんは相変わらずニコニコで手招きをしてくれた。
僕が座るとすぐにパンケーキと紅茶が届いた。
紅茶の匂いが店内に広がる。
僕は早速手につけてみた。
「おいしいです!」
普通の店より何十倍も美味しかった。
僕はバクバクと食べる。
そんな僕を愛莉さんはじーっと見つめていた。
僕はあっという間に紅茶とパンケーキを食べてしまった。
「あ、雨止みましたね」
愛莉さんが窓を見つめながら言った。
スマホを見ると時刻は2時。
予定より早く雨は止んだそうだ。
「じゃあ、僕はこれで」と立ち去ろうとすると、
「あの、雨水さん!もし雨水さんがテレビに出たら、またここに来てくれませんか?」
愛莉さんは僕の手を握りながら言った。
テレビ、か……。
「分かりました!テレビは出れなかったとしても、有名になったら来ますね!」
僕はそう言うと、愛莉さんは嬉しそうに、
「はい!ありがとうございます!」
と、さっきよりもニッコニコで答えた。
僕は店内を出た。
ふと歩いているうちに後ろを見ると、その店は無くなっていた。

「……というのが、僕の体験談です。信じて貰えなくてもいいんですけど、僕がその後に書いた「紅茶の香り」はこの話をテーマにしました。」
「なるほど。小説家の雨水さんがそんな体験談をしたなんて、とても信じられない話です。じゃあ、今テレビに出たということは、今から行くんですか?そのカフェに」
「えぇ、久しぶりにあの紅茶とパンケーキ、食べに行こうと思います」

数年後、僕は笑いながらそんなことをいい、また愛莉さんに会いに行くと心に決めた。

10/27/2023, 11:40:10 AM