海へ
やっとの思いで海へとたどり着いたとき、私にはもう何の気力も残されてはいなかった。
山を越え、河川を渡り、それでも海へとひたすらに向かったのはひとえに心の中のもやもやを振り払いたかったからだ。
それは少し晴れたものの、それ以上に大きな疲れが体にずっしりとのし掛かり後悔すらした。
何キロ歩いてきたのだろうかと自嘲しながら浜に横たわる丸太に腰かける。
貝殻を拾い集める余力もなく、石を投げ入れる気概もなく、ただ夕日が沈んでいくのを見つめる。
「探し物は見つかりましたか?」
ふと、声を掛けられた気がしてキョロキョロと見回すが誰という気配もない。
気のせいだ。疲れのせいだ。
そう自分に言い聞かせながら、私は気づいた。
「何もかもを気のせいにするために来たのか」
そして、自分の勿体ない精神の蓋をこじ開ける。
ここまで旅をして、それすら気のせいにするのは勿体ない。ありもしない財布の中身にせめてもの思い出を詰め込むために、私は貝殻を拾い始めた。
そうしていると、夕日が沈むのがやけに早く感じる。
早くしなければ、何か大切なものが見えなくなってしまう気がする。
「それこそ、気のせいなのにね」
8/24/2023, 12:52:32 AM