私が初めて幸せを感じた時、日差しは私だけに差していた。
これは、私と幼なじみの物語
「おーい!陽奈ー学校行くぞー!」
今日から高校生となった私、石森陽奈は幼なじみである瀬戸翔矢に呼ばれて慌てて家を出た。
「行ってきまーす!」
「おいおい、学校初日に遅刻する気かよ」
「ごめんって!昨日も練習してたら遅くなっちゃってー」
「ほんと泳ぐの好きだよなーお前は」
私と翔矢は3歳から同じスイミングスクールに通っていて中学校では水泳部に入っていた。家も近くて夏は近くの川や海で一緒に泳いだりしている。家族や友達には呆れられるほど一緒に泳いでいる。最初はただの幼なじみでチームの仲間だと思っていたが、私は彼のことを好きになっていた。
「だって泳ぐの楽しいじゃん!」
「そんなんだから友達できねーし、彼氏もできないんだよー」
「余計なお世話だっての!てか友達くらいいるし!」
「あーそうですねー高校ではできないんじゃない?」
「できるよ!」
「まー俺は入学式でもう友達できたけどね」
「なっ!私だって今日つくるもん!どうせちょっと顔がいいからってみんな寄ってくるだけじゃん」
「羨ましいんだろ笑」
「ちっ、違うよ!私はもっと中身を見てつくるの!」
「まー頑張れよー笑できなかったら俺が相手してやるよ」
「ちゃんとつくるよ!」
今日も朝から言い合いをしながら学校まで行く。私は、水泳ばかりで友達が少なく話す人もいない。それに比べて翔矢は顔も良く、明るい性格なのですぐに友達ができる、というより周りが友達になろうとよってくるのだ。人気な人は羨ましい。勝手に友達ができてしまう。でも私は翔矢がいるから友達がいなくても良かった。いつも話しかけてくれるし1人の時は一緒にいてくれる。嬉しいけど期待してしまうから、高校では友達を何とかつくらなければ!とは思っていたが...
「あっ、瀬戸くん!おはよう!」
「おはよー」
登校初日にこれだよ!人気者はこわい!それに比べて私は1人で自分の席まで行く。翔矢が同じクラスだったことが不幸中の幸いだ。
初日は午前中誰とも話せずお昼になってしまった。
「陽奈ー朝の威勢の良さはどこに行ったんだよ笑」
「うるさいなー、やっぱ1人でも良くなったの!」
「はぁーしょうがないなー、弁当一緒に食べようぜ」
「えっ!良いの!?」
「まあ俺たちは友だち以上の仲だからなっ!」
こういうところだ。幼なじみだからというのはわかっていても、どこか特別扱いされている気がして、嬉しくなってしまう。もし、出会ったのが私じゃない別の女子だったら今みたいには接してくれないだろう。自分だけだと考えるうちに好きになってしまう。でも翔矢は違う。嬉しさと悲しさを持ちながら2人でお昼を食べた。
「陽奈ー帰るぞー」
「はーい!」
私たちは今までと同じように2人で帰った。
6月の雨が降る日、
「おはよー」
「翔矢おはよー!」
「翔矢くんおはよう」
翔矢はクラスどころか学校中で知られていくようになった。でも、1人の私とお昼を食べ、一緒に帰る。これだけは変わらなかった。
「ねぇ、石森さんって翔矢くんと幼なじみなんでしょ?」
「えっ、そう...だけど」
「香織ちゃんが翔矢くんのこと好きになったらしくて、いつも一緒にいる石森さんが翔矢くんと付き合ってるんじゃないかって」
「そう、学校でも結構噂になってるよ」
「えっ!ち、違うよ!私と翔矢は、ただの幼なじみだから」
「そうだよね、明るくて人気者の翔矢くんとはあってないもんね」
「そう...だよ。私なんて翔矢とはあってないから付き合ってるなんて笑っちゃうよ笑」
「でも香織ちゃんは心配になってるからあまり翔矢くんと2人にはならない方がいいと思うよ」
「そう...だね笑彼女でもない私がいたら不安になるよね。気おつけるよ。」
こんなこと言いたくなかった。それはそうだ。翔矢は人気者、私なんかが一緒にいていい存在じゃない。でもあわないと言われた時、涙が出そうになった。そんなこと一番わかってるよ。でも好きになっちゃったの、しょうがないじゃん。私の方がずっと前から好きだったし、ずっと一緒にいて見てきたんだもん今さらどうしたらいいの?
悔しさと悲しさで何も考えられなくなった。
「陽奈ー帰ろー」
「ごめん、今日行くとこあるから先帰って」
「え、じゃあ俺も...」
「いいから先帰って!」
私は初めて翔矢と帰るのを断った。翔矢が帰ったあと、私は泣きながら1人家え帰った。こんなに1人で帰るのが寂しいなんて、私の生活にはもう彼のいないことなんてひとつもなかった。強く当たってしまった後悔が今になって涙と一緒に出てくる。もう好きになるのはやめよう。
帰り着くと、玄関の目の前に影が見えた。歩いて行くと翔矢が立っていた。
「陽奈、今日はどうしたんだ...ってどうした!その顔!何があったんだ!?」
最悪だ。泣いたあとで目が腫れている。こんなのを見られるなんて。
「何でもない、早く帰りなよ」
「何でもないって、そんな顔でなんでもないわけないだろ!」
「関係ないないでしょ!もうほっといて!お願いだから1人にして...」
「...わかった。じゃあな」
翔矢はそのまま帰って行った。
「っ...なんでこうなっちゃったんだろう。私がもっと明るかったら良かったのかな」
その日のことはあまり覚えていない。
7月中旬、
「あープールとか最悪じゃん」
「なー!誰が一番速く泳げるか勝負しょうぜ!」
プールの授業が始まって喜んでる人と嫌がってる人がいるが、私は何も考えられていない。あの日から翔矢とは話してないし、一緒にも帰っていない。翔矢は声をかけようとしてるが、私が避けている。何と声をかければ良いかわからないからだ。せっかくのプールでいつもなら喜んでいるこの夏、私の気持ちはいつも曇っていた。
「瀬戸って中学まで水泳してたんだろ?」
「まあな」
「水泳できてイケメンとか羨ましいよなー!」
「お前この前、泉さんに告られたのに断ったんだろ?もったいねー。学校でも人気の美女だぞ」
「だからなんだよ。別に美女だから好きになるわけじゃないだろ」
「ふぅー!そんなこと言ってみてーなー!」
「さっさとやるぞ」
翔矢、泉さんの告白断ったんだ。すごく綺麗で人気で翔矢と似合ってるのに。そう思いながらも、安心している自分がいた。
「じゃあ100メートル記録するぞー」
先生の合図で記録が始まった。
私の記録は、1分10秒だった。
「え!石森さん速くね!?」
「俺よりはやいんだけど!」
「石森さんすごーい!」
私はプールから上がるとみんなから注目を浴びていた。
「おい!翔矢とほとんど変わんねーぞ!」
「だってあいつも水泳やってたからな」
「...は!?お前ら部活も一緒だったのかよ!」
「3歳から一緒にやってたよ」
「ほんっとの幼なじみだな笑」
翔矢が私との話をするなんて思ってもいなかった。嬉しかったのに、なぜか2人の秘密を知られてしまった気分だ
「石森さん、あんまり浮かれてると痛い目見るよー」
私は振り返ると、目の前にいた泉さんが私をプールへ突き飛ばした。
「わっ!」ドボン!
「陽奈っ!」
息ができない。急に落とされてパニックになっていた。私死ぬのかなー?最後に好きって翔矢に言えばよかった。
そう考えてるうちに、いつの間にか意識を失っていた。
「ここ...どこ?」
目が覚めると白い天井がみえた。生きてるんだ、私。右手が温かいと思って見てみると、翔矢が私の横で眠っていた。
「んっ...陽奈?」
「翔矢起きて」
「...っ陽奈!目覚めたのか!?」
「これを見て覚めてないわけないでしょ」
「良かったー!どうしようかと思った」
すごく心配してくれたんだろう。目の下にくまができている。
「お前3日眠ってたんだぞ」
「そっか...翔矢、いろいろごめん...」
「...ほんとお前といると疲れるわー」
やっぱり翔矢もそんなふうに思ってたんだ。もう嫌われたんだ、そう思うと涙が出てきた。
「ごめんね。もう迷惑かけないから、私のことはほっといて」
「何言ってんだよ、迷惑なのは昔から変わんねーだろ。何があったんだよ。ちゃんと聞くから」
「...泉さんが翔矢のこと好きで近くにいないでって言われたから、一緒に帰るの辞めようと思って、そしたらこの前、振ったって聞いてその時泉さんからプールに...っ」
「どうしたの?」
「...突き飛ばされた」
「...っごめんな、俺のせいで」
「翔矢は悪くない。でも、どうして振ったの?人気者だし、すごくお似合いなのに」
「...俺には...好きな奴がいるからなー」
そうだったんだ。そりゃ翔矢にも好きな人くらいいるよね。悲しさで涙が止まらなかった。
「じゃあ私なんかといたら、誤解されちゃうよ」
「いいよ、誤解されても」
「えっ?」
「だって俺、お前のこと好きだもん」
時間が止まったように感じた。翔矢が私を好き?
「そんなわけないじゃん。私みたいな陰キャのどこがいいのよ」
「俺の前だと笑ってるとこ。俺だけの特権だからな!」
涙が溢れてきた。こんなに幸せだと感じることがあるのだろうか。
「俺と付き合って...だめ?」
「私も翔矢が好き。ずっと前から」
その日初めて、日差しの温かさに包まれながら、幸せを感じた。
7/3/2023, 9:33:40 AM