おと。

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どこを走っているのかがわからない。
ただ、ある道を走ってなにかから逃げている。

俺は何もできない俺が嫌いだ。
とにかく一人で物事を判断するのが苦手だ。
好きなことを嫌いなことを率直に言ったら、後々面倒くさくなる。
好きなことを言って、嫌いなことを好きなように言って後から批判を買うよりかはマシだった。
だから全てを飲み込んだ。

好きなこと
嫌いなこと
やりたいこと
やりたくないこと

自分の思いをすべて自分の中に閉まって、嘘の自分を被った。
本音を言わなければ誰も何も言わない。
だから、こんな世界にうんざりして逃げた。
自分の本音もからも、施設からも逃げて、ただ知らない場所を走り続けた。

気付けば海が見えるきれいなところにいた。
あることを思いついた。
ここから落ちれば一生誰にも言われずに逃げていけるのでは、と。
「これが最後、か。まぁ、悪くは無かったかもな。」
そう言って、柵を飛び越えて海に落ちた。
暑い夏には似合わないくらい、海は冷たかった。
これで楽になれる。誰にも言われずに、逃げていける。
意識を手放しかけた時、視界に人がうつったと思ったら上まで引き上げられた。
「何してんのさ!」
助けてくれたのは俺の幼馴染みだった。
「はぁ、邪魔すんじゃねぇよ?あと少しで死ねたのに」
「君は何から逃げているんだい?」
急に聞かれた。こいつは昔から勘がいいやつだ。やっぱりバレてた。
「…何も」
「私に隠し事かい?無理に決まってる。それに、なんとなく、わかる。」
「だったら、聞くんじゃねぇよ」
そう言って突き放し、沈黙が流れた。それを破ったのはあっちだった。
「なら、助けてあげたお礼を貰おうかな」
「俺は別に助けてほしいなんて言ってねぇよ」
「でも、助けて欲しそうな顔はしてたよ?」
「勝手にしろ!」
「じゃあ、死ぬの禁止、それに君は私よりも養護施設の人気者だろう?君が死んだらみんな悲しむ」
声でわかる、ほんとは心配していることを。
怒っているようには見えるが内心、心配で仕方なかったんだろう。
普段からそんなんなら俺みたいに人気になれるかもなのにね。
「てなわけで、私が死ぬまでは君は死ぬの禁止ね」
「……わかったよ」
「ほら、行こう」
そう言って二人で夜の道を歩き出した。
俺は心の奥底で思った。


また逃げる毎日に戻るのか

#18

5/30/2023, 11:48:50 AM