🐥ぴよ丸🐥は、言葉でモザイク遊びをするのが好き。

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097【脳裏】2022.11.10

《では、ちょっとわたくしに向って、これは傷つくだろうな、という悪口を言ってみてくれませんか?》
《え? ホントに言っちゃっていいんですか?》
《いいんですよ。とにかく実験ですから》
《それでは、言いますよ……この、ブサイク、最近は髪もうすくなってきてるぞー》
《うっ……ぐさっ》
《今日はすでに3回噛んでるぞー、テレビに出るのなんかやめちまえー》
《ううっ……ぐさぐさぐさっ》
《あっ……だ、大丈夫ですか?さすがに言いすぎましたよね》
《いや、アナタ、もしかして普段から思ってること言ってるんじゃあないでしょうね?》
《そんな、めっそうもないですよー!……クスッ》
《まぁ、というふうにですね……悪口を言われて心が傷ついた、なんて言い回しを、ふだんわたくしたちはなにげなーく使っているわけなんですけども、脳のほうでも、体に痛みを感じているときと同じ部位が反応している、ということがわかった、ということなんですよね?……》
《はい、そうなんですよ。これをわかりやすくしめしたのが、こちらです》

テレビの中の小野アナウンサーは、おもむろに、となりに立っていた志の輔の頭蓋骨をかぱっとあけた。剥き出しになった志の輔の脳みそには、悪口を言われた数だけ刃物が刺さっていた。

《イタタっ……いたいよう、言葉の刃物、いたいよう……》
《というふうに、どうも脳は、言葉の刃物に刺されたときも、本物の刃物で体を刺されたとき同様に、痛みを感じているようなのです》
《あの、この刃物、言ったアナタの責任で、はやく抜いちゃってくださいよ》
《はい……だけど、私なんかが抜いて、血がいっぱい出たりしちゃいませんかね?》
《そりゃアナタ、NHKの美術さんの技術を信じて、すぱっと!》
《では……せーの、すぱっ!》
《あぁ、ほっとした。自分の悪口を聞かされたら、その人の脳の中ではこんなことになってるんだ……ってわかってたら、悪口なんか、もうとんでもなくおそろしくて、言えなくなっちゃいますね》
《そうなんです。いまの志の輔師匠と同じように、悪口を言われて脳に刃物が刺さった人物の映像を見た人はその後も悪口を言うか、と実験をしてみたところ、なんと、10人中10人が悪口を言わなくなったそうなんです……》

へえ、すごいな……10人中10人が。ということ以上に、最近のためしてガッテンは、志の輔の体までもをガッテン装置として使うのか、とたまげたところで目が覚めた。
そうだ、ガッテンは、もうやってない。終わった番組だったんだった。
あれは夢だったんだ、と自分にいいきかせるものの、脳みそに刃物が刺さったまま痛がる演技をする志の輔のシュールな映像が、どうしても脳裏から消えなかった。

それにしても、脳裏、ってどこだ?……ああ、頭蓋骨のなかで、ってことか。どうもあのシュールさから、しばらくは立ち直れそうになさそうだった……。

11/9/2022, 3:10:10 PM