田舎の電車は数時間に一本しかない。高校までは自転車で通った。晴れた日も雨の日も。ちらちらと降った雪の日も。
駐輪場から見えるテニスコートであの人は部活に勤しんでいた。朝練って大変そうだなんて時折思ったりして。あわよくば私の視線に気づいてほしいなんて心の中でそわそわしていた。
告白する勇気もないまま迎えた三年はあっという間に駆け抜けて、いま終わりを迎えようとしている。
「ありますように……」
乗り慣れない電車を乗り継いで現地へと急いだ。インターネットでも掲示されるとはいえ、一生の思い出になるのだと思うから遠路はるばる赴いたのだ。
合格発表の掲示板の前には人だかりが見える。嗚咽を漏らす人もいれば淡々とどこかへ電話を掛ける人、大声で喜びを表す人、三者三様とはまさにこのことで、数秒後の自分を想像して、かき消した。
辺りを見渡してみるも彼の姿はここにはない。彼が目指す大学は自分には些か厳しかった。けれど、同じ大学、同じ学部となれば接点のひとつやふたつを持てるかもしれないと淡い希望を抱いた。きっと彼は自宅で合否確認をしているのかもしれない。はやる気持ちを抑えてゆっくりと深呼吸をして掲示板に歩み寄る。
「あっ、……」
あった。声にはならなかった。心の奥底からふつふつと何かが湧き上がるようで、躍動する気持ちを抑えるのに精一杯だった。すぐさま家族に連絡をして、学校への連絡も済ませた。
あとは卒業を待つだけだと胸を撫で下ろした。
翌日学校へ行けば友人とは合否の話で持ちきりだった。やれ受かっただの、二次試験に賭けるだのと思い思いの話を口にした。ただ、彼の姿をなくして。
後日友人から聞いたが、彼は不合格だった。二次試験に挑むかと思いきや、滑り止めで受験した大学へと進学を決めたらしかった。
「バカみたい……」
ぽつりと独りごちる。気持ちがすっと冷めていく。
思い描いていた彼と同じ大学で、同じ学部で、それで同じゼミで、話をすることも増えて、それでどのサークルに入るのかを聞いたりして、サークル仲間と交えてキャンプをしたり……。
「想像って、やっぱり想像なんだなぁ」
自転車のペダルを思いっきり踏み込んで、少し春の陽気を感じさせる風を切った。
3/22/2023, 2:13:17 PM