August.

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〈カーテン〉

保健室は学校内にあるはずなのに、別世界にいる気分にしてくれる。
保健室のベッドに寝そべり、独特の消毒のような匂いが鼻につく。アルコールのような匂い。

いつも保健室にいるような生徒ではない。不登校でもサボりでもない。いつもは毎朝登校し授業もちゃんと受けて、週に3回のクラブ活動をして、帰宅する。至って普通の生徒だったが、今日はノットノーマルデーだ。

いつものように校門に突っ立ってる教頭に頭を下げは途端、下腹部に鋭い痛みに襲われた。
声にならないほどでそのまま私は蹲った。
異変に気づいた教頭やたまたま通りかかった友達、名前すら知らない生徒が次々に声をかけてくる。
私はそれに頭をふるか、頷くことしかできなかった。額には汗が伝わり、ぎゅうっと痛みが次第に強くなる。

女にしか分からない、痛み。

「おい、大丈夫か?」
「ユキちゃん?どこが痛い?」
「俺、保健室の先生呼んでくる」

親切心で声をかけてくる人には申し訳ないが、私にとっては騒音にしか聞こえない。
頼むから、ひとりにしてくれ。
心の底から願った。
やがて騒動を聞きつけた養護教諭が私の意図を読み取ったのか、私を囲む生徒らを遠ざけ、背中を擦りながら裏道から保健室に入った。
幸い他に生徒はいないようで、近くのベッドに寝かされた。
心遣いのつもりなのか無意識なのか分からなかったが、養護教諭の配慮にはとても感謝する。

「寝てて良いからね。1時間くらいして症状次第で早退するか考えよう」
そう言って、養護教諭はカーテンを閉めた。
複数のベッドが並ぶ1台に寝かされ、他に生徒はいないとは分かってるが、そわそわしてしまう。
生まれて初めて保健室のベッドを使い、枕に顔を突っ込む。柔らかい花の柔軟剤の香りが伝わり、うとうとし始めた。下腹部は相変わらず痛いが、さっきよりはマシになった。

冷房の風でゆらゆら揺れ動くカーテンを見ながら、瞼を閉じた。
このまま時が止まればいいのにと願いながら。

10/11/2024, 10:37:56 AM