入道
からりと晴れた青空、その真ん中に堂々と立つ入道雲。
子を産んだ日に、その女が窓から見た景色だ。
そこで女はその子に入道(いるみち)という名前をつけた。
いるみちは自分の父親を知らぬまますくすく育ち、やがて20歳になった。
そして、父親である私を探し当てたのだ。
私はその頃、資産家でありながらも病床に臥していた。
しかし、私は喜んでいた。隠し子ではあるが、我が子が私に会いに来てくれたこと、私の看病をしてくれたことに
我が子の中で私に本当に尽くしてくれたのは、いるみちだけだった。
そこで私はその女の願いを叶えてやろうと思った。
入道雲はやがて台風に育つという。
私の資産にしか目のない、私の家族に台風が訪れることを願って
私はそっと遺言状に筆を走らせて、愛しいその女の産んだ子の名前を書いた。
6/29/2023, 12:38:55 PM