「タケノコ」
放課後の帰り道。
その日は竹林の木陰の下を、家の近い幼馴染と二人で歩いていた。
風が心地よくて、竹が擦れ合う乾いた音や自転車を押すギアの音が、その中を静かに響く。
つい最近私が発見した、お気に入りの帰り道だ。
気が付くと、私達の先に、杖をついたおばあさんが歩いていた。
「こんにちは」幼馴染が大きめな声で言った。
そのおばあさんはこちらに気付いて、「おかえり」と優しく返してくれた。
それからの道は、おばあさんの歩調に合わせて、一緒にお話をしながら歩いた。ここにある竹林は、おばあさんの夫が所有する土地だということ、春になるとタケノコが豊作なもので、午前中いっぱいはタケノコの採集をしていたこと。
「タケノコ、よかったら持ってきなよ。ほら、家よってって。」
「いえ、そんな。悪いです。旦那さんと食べてください」
私が慌てて答えると、
「あたしだけじゃ、食べきれないんでさ、」
とだけ言って、おばあさんは台所と思われる奥の部屋に入って行った。
そして、大きな二つの袋を両手に提げて、玄関先で立ちつくしていた私達に持たせた。
中を覗く。丁寧に皮剥きされ、新鮮で柔らかそうな肌をしたタケノコがどっさりと詰め込まれているのが見えた。
私は、先程の失言に、少し申し訳ない気持ちになっていた。
おばあさんは言葉をつづる。
「あたしさあ、この頃ずっと独りだったんよ。息子も働きに出て早13年。最近は訪ねてこないしね。だから、今日あんた達に会って、話せて、とっても嬉しかったんだよ。ほんとうの孫みたいで、なんだか嬉しいなあ、てさ」
お礼を言って家を出る時、私達は二人して
「またね!」って力を込めて言った。そうすれば、おばあさんも私達も、心が繋がれる気がしたから。
お題: またね!
3/31/2025, 12:45:46 PM