M氏:創作:短編小説

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澄んだ空気は触れるに少し肌寒く
呼吸を繰り返せば自ずと気道が冷える
苦しくなったら深く息を吸い
体内を巡りぬるくなった息を吐く

そうする事で冷静になれる
雲一つ無いような抜ける程晴天の今日
青く淡く広がる空は自分より背の高い建物で窮屈そうだ
天に居る両親も窮屈な想いはしていないだろうか

『鞠姉、お供え物ってチョコでも良いの?』
『パパもママも好きだったし良いんじゃない?』

姉と妹が選ぶ両親への贈り物は洋風なものばかりだ
和菓子が好きな自分とは対で両親は洋菓子を好んでいたなと
2人の会話で薄く思い出す

「じゃあちょっとお高いの買おうよ」
『幸くん無理しないで良いんだよ?』
「大丈夫、お金はあるから」

両親が亡くなって姉兄妹の3人で施設に行く
それを拒む為に学業を蹴り仕事に就いた
胸を張れるような仕事では無いが
お世話になった人も居るし、仲のいい人も居る
姉の夢を、妹の学業を応援出来る程の財もある

『じゃあゴヂバチョコにしよう!母の日に買ったらめっちゃ喜んでたから!』
「懐かし〜3人でお金出し合ったやつだ」
『皆でお茶会みたいになったよね、家族で食べよってさ』

幼い手で3人並んで
母の日だと店員に伝えて選んでた
今じゃ遠い思い出だ

「コレ好きじゃなかったっけ?」
『好きだったけど新商品も食べさせたいよね』
『分かる〜コレお酒入ってるって、おっとな〜』
「それは琴ちゃんが食べれないよ」
『法律的にはチョコに入ってるお酒はお酒の分類から外れるから行けるよ』
「そ、そういうものなの?」
『さっすが琴ちゃん!3姉兄妹で一番の秀才!』
「でも酔う子もいるよ?」
『いーいの!!』

両親の好きだったもの
新しく作られたもの
あの頃は買わなかった酒入りのもの

3人で選び言葉を重ねて受け取ったもの
線香と花を男の己が全て持つ
前を歩く2人の小さな背中を眺めながら
冷えた空気を含んでは吐く

上から見守る両親は
姉妹の為に手を汚す自分を見て泣いてるだろうか
口が裂けても白と言えない道を歩く自分を見て
呆れるだろうか

寺院墓地に足を踏み込み
本堂のお参りと住職の人に軽く挨拶を終えて
“夜桜家”と書かれたお墓に向かい
3人で並んで合掌を送る

『パパ、ママ。久しぶり』
『ウチらめっちゃ元気にしてるよ!』
「水持ってくるね」
『任せたお兄ちゃん!』
『荷物は持ってるよ』
「ありがとう」

レンタル出来るバケツを持って水を汲む
バケツの色と空の色が相まって透明な水が青く染まる
揺れる水面に映る自分と目が合い
少しばかり深く呼吸して
少しばかり強くなった風に背を押されるように2人と合流した

水をかけるのは姉である鞠がやり
柔い布で擦るのは自分がやる
その近くで両親に語るのは妹である琴

学校であった事、今習ってる事、友達の事…

それらを話終わる頃には掃除も終わり
手桶に綺麗な水を張って
打ち水をする役目を担う

花立には桃色の美女桜
水鉢には綺麗な水を
終わり次第買ってきたお供え物を並べていく

『そう!パパにね、コレをね…』
『鞠姉わざわざCDにしたの?』
「え!良いなぁー俺が欲しい」
『そりゃね!今じゃスマホでちょちょいのちょいだけどさ!天国にスマホって無さそうじゃん?2人にも家に帰ったらあげるよ!』
『音楽プレーヤーはあるの?』
「無さそうだけど…」
『細かい事は気にしない!』

姉は今こそ有名になってきたが
元は伸び悩んでいたバンドのギターボーカルだ
ギターを教えてくれたり
自分の歌声を褒めてくれたり
両親の優しい支えがあったからこそ
今も走り続けられるような夢を持てたのだろう

『どうかCDプレーヤーがありますようにー!』
『天国で和風ロックバンドガンガンに鳴らしてるパパとママ…んー…』
『次からはギター持ってくるか…』
「やめようね、周りの人が困っちゃうから…」

わちゃわちゃとした雑談も立てた線香に火をつければ収まる
手を合わせ、感謝と近況報告を心音で伝える

父さん、母さん
2人は俺が守るから
2人が幸せに生きられるように
安心して見守っていてください

『…さて、帰るかー!』
『ちゃんとお菓子忘れないようにね』
「帰ったらお茶会だね」
『うっまいお紅茶を淹れたりますわ!』
『鞠姉は料理下手だからやめときなよ』
「俺が淹れるから大丈夫だよ」
『幸くんの料理で舌が肥えてるだけだって!私は平均だよ!普通に出来るよ!』
『幸くんのが美味しいんだもん!』
『素直じゃないなぁ、愛しいお姉ちゃんお兄ちゃんの美味しい紅茶が飲みたいって言いなさいよ〜』
『言わない!』

雲一つ無い抜ける程の晴天に響く家族の声
少しばかり強かった風は今じゃ優しく3人の背を押す
世知辛くとも寒くとも
幸せは傍にある

いつもありがとう
無理しないでね

風に混ざる届かない声

題名:秋晴れ
作者:M氏
出演:夜桜家


【あとがき】
秋晴れ繋がりでとある創作と繋がってるものを
別れと言うのは突然やってきます
夏が終わって急に肌寒くなる秋のように
遺された人は辛く悲しく思う時もあるでしょう
ですがそれを支え合える人が居れば
視線は自ずと前を向くと思います
お盆でも無いこの時期に墓参り描写を書くと言う奇行をお見せしましたが
沈み過ぎずに、だからと言って浮かれ過ぎずに
出演してくれた3人の今を伝えられればと
そう思っています
補足ですがM氏は姉妹は居れどこんなに仲良くないですし墓参りもした事ありません
こんな姉兄妹居ない、墓の礼儀が成って無い、などと言ったものは暖かな目で見てください

10/19/2023, 9:58:15 AM