窓越しに見えるのは、遠い記憶の空だった。
心臓を揺さぶるようなエンジンの音。凍てつく空気を切り裂いて飛ぶ死の鳥は、多くの人々を死に至らしめ、人々が築いた歴史を次々と破壊していった。だが私はあの忌々しい飛行機に憧れを抱かずには居られなかった。サイレンが鳴るたびに、あの頃の私はなにか不謹慎な高揚感を覚えていた。もう古い話だ。瓦礫の山は見る影もなく、新しくなった街で人々は平和に過ごしている。窓から見える鉛色の空に、あの飛行機はもう居ない。本当は喜ばしいことだが、私はどこか喪失感の様なものを感じていた。
あの頃の一体感や高揚感はどこへ行ったのか。
その時、地響きのような音とともに、窓ガラスが砕け散った。その尾翼には、赤い星が煌めいていた。
「臨時ニュースを申し上げます。本日正午、我が国に対し奇襲攻撃が行われ...」
7/1/2023, 1:19:36 PM