いつも通りがかる道の植え込みに咲くアジサイ。
花びらに水滴が付いていた。生憎の雨すら特別な宝石のように魅せる。不思議な紫の艶やかな姿。
自分の愛する人に少し重ねて花に指先を近づける。雫の冷たさと滑らかな花びらの肌触りがますますその人を想起させ、思わず口元が緩みかけた。
数回ほど指先で撫でてから、アジサイに別れを告げる。
こうして此処を通りすがったのは、これからその人と出掛けるから。
何歩か足を進め、一度植え込みに振り返る。
魅惑の色を生み出す原理をふと思い出し、小さく息を吐き出しながら心の中で願いを掛けた。
どうか移ろわないで、色変わりの花のように。
6/13/2023, 11:39:27 AM