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#丁寧な暮らし

高校を卒業して念願の上京を果たした私が、憧れのキャンパスライフと一人暮らしを始めるにあたって、某動画アプリの検索ボックスによく打ち込んだ7文字。

家具の色味は統一して、常に整頓されている部屋には、小さなLEDライトが連なった間接照明を付けてみたりして。
玄関とリビングにはディフューザー、お風呂にはアロマ、寝る時はキャンドル。
朝ごはんにはパンケーキを焼いてみたり、寝坊した日はシリアルとフルーツにしてみたり。お昼ご飯はお弁当を持参するのも友達と学食で過ごすのもいいな、なんてキラキラした生活を思い描き続けていた。


あれから数年が経ち、社会に出た今では、たまに流れてきた動画を観て、撮影の時だけだろなんて鼻で笑ってしまうような落ちっぷり。
最初の3ヶ月は我ながらよく頑張ったと思う。
知らない街で知らない人と共にする生活は、何もかもが新しくて輝いて見えて全部を楽しめたし、それが続くと思っていた。

別に何かきっかけがあったわけではない。
慣れと同時に飽きが来たのと、自分の惰性が隠せなくなったというだけ。


ボーッと過去を振り返りながらこんなはずじゃなかったんだけど、と散らかった部屋の真ん中で大の字に寝そべってみる。


「考え事?」


頭上から耳に馴染んだ声が聞こえて、視線を向ける。


真っ白な部屋でキラキラした一人暮らしは私向きではなかった。
ただそれは、決して "不幸でした" というオチには繋がらない。

なぜなら今の私には、お互いに素の自分を曝け出せて、心から愛おしく思える相手がいる。

そしてそんな相手が、私と一生を共にしたいと申し入れてくれてから、もうすぐ半年が経つ。


明日はまた一つ念願を果たす日。
人生で3回あると言われる、自分のために大切な人たちが一堂に会する機会の2回目。


緊張と幸せが混同した頭で、恋人最後の今夜は数年前の私が買ったきりのキャンドルを灯してみようか。なんて考えて、笑みがこぼれた。





【キャンドル】

11/19/2024, 11:35:24 AM