🐥ぴよ丸🐥は、言葉でモザイク遊びをするのが好き。

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094【柔らかい雨】2022.11.06

さっきフラれた。傷ついたこころを抱えたまま、寒い独りの部屋に帰るのは、かなりこたえる。
そのうえ、空模様も怪しい。傘なんか持っていなかった。そこのコンビニでビニ傘でも買えばいいんだろうけど、そんな気持ちにもなれなかった。濡れるしかない、というよりは、濡れてしまいたい、とおもっていたからそのまま素通りした。
とうとう降りだした。あーあ。もう、どうでもいいや。今日は冷えそうだったから、季節にフライングして、かなり厚手のコートを着ていた。家までなら、なんとか芯まで濡れずにすむだろう。それに、フードを深くかぶっていれば、眼鏡が濡れてまえが見えなくなることもなくてすむだろう。なんなら泣いてたって、バレはしない。
うつむいたまま、フードを頭のうえにひきあげた。その手の甲に、なにかが当たった。
「?」
いまのはなんだったんだろう、と手の甲をしげしげとながめまわしてみたが、なんの痕跡もなかった。
ていうか、なんで濡れてないんだ?
つい、顔をあげてしまった。雨粒を確認するために、手のひらをまえへ差し出したら、
「マシュマロ?」
突然の、真っ白なマシュマロだった。
へ?、と上を見た。と、高速で落下してきたマシュマロを眼鏡でまともに受けとめるハメになった。呆然とひらいた口にも、マシュマロがはいっていた。これはどうも、ストロベリー風味のようだった。
「は?……ははは、ふはははははは……はは、ははは……」
雨あられとふりそそぐ、柔らかい雨。まさかこんなことで失恋の傷心を癒やすことになるだなんて。
学校帰りに、ずっと顔をうえにむけて、雨粒を口で受けとめようと、馬鹿なチャレンジをしていたことをおもいだした。もとより傘なんていらなかったんだ。あといくつのマシュマロをキャッチできるだろう。家までずっと、うえをむいて歩こう。フードがぱたりと頭からはずれた。それでいい。それでいいんだ。きっと、家につくまでには、フードのなかにも、ふわふわのマシュマロがいっぱいたまっているにちがいない。

11/6/2022, 11:03:01 AM