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遠くの街へ

眠っている冬の空
冷たい夜風が肌を撫でる
日が昇る前の街は雲という布団の中に潜っている
街灯もなくただひたすらに暗い道を彷徨った
am4:00 店のシャッターも閉まっている
静かになった街は人の愚かさを際立たせる
自分がやけにちっぽけな存在だと思えてくるのだ
足を進めるたび愚かに思う
街灯もなく湿っている道はより不安にさせてくる
誰もいない夜道を歩くという行為は誰かが言う普通とやらから外れている気がした
普通などとは誰も意味を知らない言葉であり
何かを型にはめていないと不安な人が作った言葉だ
基盤を作ることは物事には大事かもしれない
人を型にはめてみたところではまるわけがない
強制的にはめてみたところで苦しくなるだけだ
こう言い訳を重ねてみることで、また普通から外れていくのだ

脳内反省会をしていると
急カーブに差し掛かる
大きな橋と川が見える
角には写真館があり
家族が笑っている等身大パネルのようなものが一つ
まだ店の明かりもついていなかった
その顔も知らない家族たちは年中無休で笑顔なのだろう
店を取り壊さない限りは。
川を覗いてみた
ありふれた川だった
石が沢山あり流れに沿って水が流れている
川の近くに住宅街が立ち並んでいた
住宅街は嫌いだ
自分より高い建物と人混みが嫌いだからだ
高い建物があると空は見えず下を向くしかなく息が詰まる

市役所に通りかかった
市役所は夜空に照らされ
光の当たらない湿った雰囲気を醸し出していた
この市役所で働く自分を想像した
ここでも使えないと言われるのだろう
嫌われ者になるに違いなかった
アルバイトも出来るのだろうかという不安が拭えない
働けるのだろうかという不安が四六時中付き纏っている
また使えないと言われるのだろうか
自分のせいでまた嫌われるのだろうか
また無いものとして扱われるんじゃないだろうか
不安は膨張していくばかりだ
市役所から威圧感を感じた
黒く光る市役所は被害妄想の種としては中々なものである

市役所を通り抜けていくと
スーパーと小さい店が見えてくる
明かりもついていない老店舗が立ち並ぶ
和菓子や色々なものを売っていた
そのまま通り抜けていくと神社が見える
神社に続く長い階段
角にあるコンビニエンスストア
そこの街は新と旧が混ざり合っていた
特殊な字体のレトロな看板が次々に並んでいた
けれど街の人は旧の固い頭のままだった
今は古いだけでその当時は革新的な考えだったのだろう
右に曲がると警察署と会館がある
通り抜けていくと煙草の自販機と古い店がある
ずっと上っていくと駅がある
駅といっても少し廃れた駅だ
昔からある駅で駐車場が広い
駅の路地裏へ行くと制服姿の人影が並ぶ
無心で歩いていたからか時間を忘れていたようだ
制服姿の人影を通り抜けて何処かへ向かう

集団となって登校する制服姿を通り抜ける様はなんとも異質に思えてくる
私が私服だったのもあるだろうが
朝に制服姿と私服姿の自分が並ぶということは
自分が普通じゃ無いような気がしてならなかった
集団によって生まれた同調圧力だろう
明るくなっていく街にスクールバックと制服姿が並んだ
その集団から逃げる様に歩く私服姿の自分
普通じゃ無いというのを見せつけられている感じがしたのだ
同じ年代でここまで差があるものかと思った
それはどこかの誰かという恨んだ存在にも言われた言葉だった

普通じゃ無いと思った事はもう一つあった
駅で辞めた学校の先生に会ったこと
一方的に会っただけなので相手は気づいていなかった
辞めた学校の先生を乗せた電車が進む
廃れた駅の砂利が寝転ぶフェンス越しに見ていた
あの先生も私を嫌っていたか問題視していただろう
国語の担当の先生だった
この現実も詩的に飾ってみてはくれないかと藁に縋った
嫌われているのだろうし話しかけるのがまず無理だ
その先生を乗せた電車が進むのをずっと見ていた
過去を思い出した
過去は先生を乗せた電車の様に一瞬にして過ぎ去った

そこからまだ進んでいくと
通学路に並ぶ小学生達がいた
小学生は私を警戒していた
何もしませんよ。自分の人生を棒に振ることなどする元気がありません。と頭の中で呟いていた
小学生の女の子は後ろを振り返って私をじっと見た後
走って逃げてった
今はそういう犯罪も増えているところですし
警戒するのも分かります。
若くは見られない自分ですから警戒したのでしょう
ずっと通り過ぎて行っても自宅からの距離だけ離れる一方で焦燥感と辛さが混入したこの感情から離れる事は無かった
遠くの街へという題名だったが歩いたのは近場だった
まぁけれど近場は誰も通るであろう
近場を歩き進めたら遠くの街へ行くのだから

散歩はおすすめしない
すれ違う人の目線や仕草を気にしてしまって
どうにも上向いて歩こうどころではない
前すら見れないのに上など見れるわけがない

遠くの街へ

2/29/2024, 1:32:34 AM