明良

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「お前はどうしたいんだよ」
それがわからなきゃ何もできない。私の手を無理やり掴んで彼は言った。
まず離してほしいと言った。お前が話したらな、と彼は言う。とにかく手を離してくれなければ、まともな言葉も浮かんでこない。そもそも求めていることなんてもうないが。

「お前が許さないというならそれでいい。ただ謝らせてほしい」
本当に後悔しているし、反省もしている。同じ過ちは二度としないと誓う。近づくなと言うならもう姿をみせないようにする。して欲しいことがあれば聞く。だから、

「ならそれでいいじゃないか」
彼の話を遮って言葉を返す。
「後悔も反省もできたんだろう。ならそのまま過ごしていけばいい」
「しかし、」
「して欲しいことなら、今、手を離すこと。反省したというなら、今後出会う人に同じことはしないでしょう」

何も言わなくなった彼の手が緩む前に無理やり手を抜きとって、再び背を向けて歩き出す。
事が形式上収束したようにみえたあと、わざわざ目の前にきて改めて話そうとしてくるなんて彼はましなのかもしれない。先に言った私の“お願い”も、“許し”と受け取って、自分のなかで終わったことにはしない人なのかもしれない。それでも。

謝られたら私が困るのだ。許さないとて一生引きずられては私も引き摺るだけ。許したとて忘れてもらっては腑に落ちぬ。
この世は地獄ではなく、罰を受けて禊を払い、犯した全てを清算させることはできない。そして私は彼の地獄に判決を下し、次の生を歩む手伝いはしたくない。

この思いを晴らすための望みを強いて述べるなら、時間を戻して全てなかったことにする。いっそ私たちが出会わなかった過去にする。実現不可能な話。

彼が抱える思いは、その後悔と反省やらは、案外すぐ消えるかもしれない。似たようなことをまた犯すかもしれない。何も信じられなくて先が見えない。
私の不透明な思いは薄くなるとは思えないが、この先の人生で湧く思いと一緒に濁らせたまま抱えていくしかない。浄化する方法はない。

これ以上、綺麗にすることは出来ない、何をしても余計なことでしかない、どうにもならない話なのだ。

【やるせない気持ち】

8/24/2024, 5:56:53 PM