クレハ

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「さいたー、さいたー」

楽しげな声を聞きながら目を閉じる。
心地いいなあ。
太陽の下で、君は楽しそうにくるりと回転した。
足首まで覆い隠すスカートがふわりと跳ねて、草花がかすかに揺れる。

「きれいだねえ」

腕に抱いた大切なものに話しかける君。
優しさと。
暖かさと。
そう、これはひだまり。
彼女はひだまりの化身。
花畑で踊るあの子は、色とりどりの花に囲まれて楽しそう。

「なんて名前だろう、ああ!食べちゃダメよ」

しゃがみこんだ彼女に、これ幸いと手を伸ばした腕の中の宝物は、どうやらむんずと花をむしりとって口に運んだらしい。
慌てる彼女の声が聞こえて、俺は忍び笑いを漏らす。
くるり。振り返った彼女が母子そっくりな顔で笑った。

「    」

俺の名を呼んで手を振るあの子に、日傘をさしむける。
綺麗な新緑の葉に似た瞳を瞬かせて、そっと触れる赤子の頬に分かりやすくびっくりした様子。

「まあ!こんなに熱くなって…、ごめんね」

そういうつもりじゃなかったんだけど。
いつだって我が子を優先する彼女を笑って、彼女がそうしたように頬に触れた。

「君だって熱いじゃないか。俺に心配させておくれ」
「あ……ありがとうございます」

本当は。
やっぱり君は陽の光の下でくるくる笑っている方が好ましいのだけれど。
太陽は人を焼いてしまうから。
すこやかに、おだやかに、笑っていて。
俺の手の届く範囲で。

強風にあおられて飛び上がる花びらに、母そっくりの赤子が手を伸ばした。

お題「花畑」

9/18/2023, 9:21:57 AM