自惚れていた。もう一度会いたい、その想いが通じたのだと。
目の前に居る彼を見つめる。顔も、身体も、全てが間違いなく大好きな人のそれだった。
私に会うために、そう思った。でも違う。彼が求めてきたのは私じゃない。
恋人の想いよりも彼をこの世に引き止めたものがあることに、とっくに気がついていた。
「久しぶり」
目の前の“それ”から、あの日…彼が死んだ日から
何度も脳内で再生した声。
「久しぶり、」
そう返そうと口を開いたのに、「なんで…?」呻くような声が漏れる。
「なんで此処に……」
「お前に会いに 」
嘘つき嘘つき嘘つき。期待していたはずの言葉を心声が遮る。
違う、そうじゃない。あんなに会いたいと願ったのに。
思いがけない再会が、嬉しくて仕方ないはずなのに。
どんな姿になったって、大好きなはずなのに……
「……会いになんか来て欲しくなかった」
呟くような声に、彼が顔をしかめる。
「会いになんか来て欲しくなかったっ…また別れが来るなら、会いになんか来て欲しくなかったっ!!」
堰を切ったように溢れ出す涙で、彼がどんな顔をしているのか分からない。
皮肉だ。拒絶するような真似をして、その足は勝手に彼に向かっていく。
その身体に手を伸ばす。幻でも、なにか感じられれば良かったのに。
頬を伝う涙が、やけに熱かった。
ずっと会いたくて、後悔だけが渦巻いていた。もっとしたいことが、伝えたいことが沢山あった。
じきに彼は消えてしまうんだろうか。それとも、永遠に彷徨うのか。
こういう時、なんと言えばいいんだろう。
でも、「おかえり」も「ありがとう」も言わない。
……言えない。
そんなことを言えば、もう二度と離れられなくなる気がした。
こんなことを言えば、残酷だと責められるだろうか。
それでも、私たちはもう戻れない。何度出会ったって、続けることも、やり直すこともできない。
すり抜けていく身体を抱き締める。
二度と戻れない私達への遺言を。
「“愛してた”よ」
頬には、誰にも拭われないまま乾いた本音の跡が幾筋も残っていた。
「さよならを言う前に」
8/21/2022, 3:15:24 AM