月紫さつき

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「恋人がなくなったんだ」

目の前の男性が私にそう告げた。

見慣れない場所で初対面の人にそんな重たい話をされた困惑から何を話したのかさえ覚えていない

ここは病院らしい。私は数ヶ月前事故に遭って、一部の記憶を失ってしまったと聞いた。

人が記憶喪失になって無くす記憶は大体嫌な過去ではなく、寧ろ幸せな思い出らしい。

「早く気付いてよ、」

彼の口から発せられたそんな言葉は、周りの雑音にかき消されてしまって、私の鼓膜に届く事は無かった。

うっすらと脳裏に浮かんだ記憶の中のあの人に、目の前の貴方を重ねることが出来なかった。

"君と最後に会った日"

それは知らず知らずのうちに塗り変わっているのに。

6/26/2023, 2:44:23 PM