六花

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僕は昔、"大切なもの"が目の前で壊れた。
壊れたのは母の形見である金の懐中時計。

僕は当時、虐められっ子だった。
何時もは我慢をしていたが、形見を取られた時だけは我慢が出来なかった。
彼らは其れをおもしもがって僕に返そうとせず、反応を楽しんでいた。
壊れてしまったのは唯の偶然。
彼らにそんな意思は全く無かった。
だが、壊れてしまった。
彼らは焦り、「俺たちは悪くない」「こんなの持ち込んだお前が悪い」と言った。
確かに彼らのいる所に持ってきてしまった僕も悪い。
でも、壊されて謝罪の一つも無いのは可笑しい。
当時の僕には其れだけでとても辛かった。

けれど今の僕は違う。
あれから僕はとても大事な事に気付いた。
"大切な物は壊されやすい"
だから僕は大切な物を作りたくない。
人は大切な物を壊されたら怒る。
仕返しをする人もいるのだろう。
だから僕は、いじめっ子達を数年前に"壊してしまった"

これが僕の生きている道。
大切な物は無い方がいい。
けれど、時々思う。
『大切な物があればどれだけ幸せなのだろう』と。
幸せは壊れやすい。けれど壊れないよう考えている。
幸せとは、何時か壊れるから。

僕は大切な物が無い。
作ろうとしないから。
でも、本当は壊れてしまうのが怖いから。
僕は、臆病者なのだろうか。


お題 〚大切な物〛

4/2/2023, 10:20:08 AM