宙ノ海月

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「巡り会えたら」


私には、恋い焦がれている人がいる。

1度、だけだ。関わったのは。

カフェの店員さんだった。

それがどこか、もはや覚えていない。

小学生の頃、上機嫌なお母さんに連れられて行ったおしゃれなカフェ。

そこで、楽しそうに仕事をしていたのを今でも覚えている。

大学生になっても初恋を、しかも一目惚れの人を引きずるなんて...とは思うが、忘れようと思っても忘れられない大切な人。

それがきっかけでカフェが大好きになった。

休みの日にはカフェ巡りをして、あの人はいないかな、なんて思いながら電車に揺られる。

いつか、もし。巡り会えたなら。

その時は名前くらい聞いてみたいな、なんて。

窓際の席で光を浴びながら、コーヒーを嗜む。

さあ、今日も一日が始まる。

世界に彩を与えてくれたあの人に感謝して。

仕事に行こう、そう思い、立ち上がる。


チリンチリン


軽やかな足取りで歩き出す。


「あの、これ」

「?」

後ろを振り返り、目を見張る。


「落としましたよ」


止まっていた季節に、春が来た気がした。

10/3/2023, 11:11:54 AM