めぐみ

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「バカみたい。」

あれから何年経ったのかな?
もう忘れかけていた。
秋になるとふと、あの日の事を
思い出さずには居られない。
何度も忘れようと、心に決めたのに
どうしても忘れられずに、五年の|月日《つきひ》が
流れてしまった。

鹿島先生
サイン会のお時間ですよ。

はい、分かりました
今、行きます。

そうわたしは
やっと初版本の「牡丹の香り」で
夢だった作家デビューをしたのでした。

そして今日はその初版本の発売日
待ちに待ったファンとのサイン会
少し緊張してるけど、人前に出るのは
やっぱり恥ずかし。
思いっきり深呼吸をしてから
サイン会ブースへ向かう。
大勢のファンからの歓声と初めて
わたしを見る驚きの声

書店の人達と担当出版社の挨拶が
終わりいよいよ、ファンと対面し
買って貰った本にサインを書き
ファン一人一人にメッセージを書き添える。

そして大学生ぐらいの女の子と目が合った。
その子の順番がやって来た。
その子はじっとわたしの顔を見て
眼からは涙が零れ落ちていた。
わたしは大丈夫ですかとその子に解きかけた。

その子はつぶやいた。
やっぱり
あの日のままの優しい声だ。

えっ?わたしはどこかで見た様な?
気のせい?あの子に似てるけど
あの時に見たあどけない感じと違い
少し大人びて見えた。

あの日のままの優しい声?えっ?
わたしの事を知ってるのですかと尋ねると

その子は
忘れてしまったのねと
答えた。

わたしは
そうサインをしなくっちゃと
その子の本を受け取り
サインを書いて、何かメッセージを
書きますけどと
尋ねたら。

その子は
それならこう書いて下さい。
突然消えたのを許して下さい。
春菜の事を今でも愛してます。

わたしはビックリしたのと同時に
今、別れた春菜ちゃんが
目の前に居る事に
頭の中は真っ白になり
涙が自然にぼろぼろと溢れ
春菜ちゃんの顔をまともに
見られなくなっていた。

震える手で
メッセージを書き添える。

ごめんね。
許して下さい。
バカみたいだけど
わたしは今でも春菜ちゃんの事は
忘れてはいません。
好きって言う気持ちも
あの日のままです。

ふと目を上げると
春菜ちゃんも泣いていた。
わたしわたしも
バカみたい
もっと素直になっていたら
貴女はわたしわたしの前からは
消えなかったよね。

ほんと
バカみたい。

めぐみより

3/22/2024, 3:27:24 PM