6落ちていく
意識が遠のき闇の中に落ちていく感覚に呑まれた。そんな中、小さな鯨が
自分たちの町を呑み込む様を見ていることしか出来なかった。周りでは町
の人たちが叫んでいた。町は煙に覆われ、真っ黒になり、赫で所々が染ま
り、日常は一瞬で壊れてしまった。
夢を見てるかのようだった。そんなことが、起こっているはずがないと目
を逸らした。でも、周りから聞こえる。聞こえてしまう。
けたたましく響くサイレンの音と、叫ぶ人々の声、泣いて縋る祈りも意味
をなさずに『者』が『モノ』に変わっていく音さえも、ここが現実だと示
している。そんなことを考える間もなく、私は逃げることしか出来なかっ
た。ただそれでも、生きていたいたとえ周りの人がみんな居なくなってし
まっても、私だけでも生きていたいそんな胸中でただひたすらに鯨から逃
げ続ける。振り返ることは出来なかった。振り返ってしまったら足を止め
てしまいそうだから。ごめんなさい。
私は生きる決意だけを持って町から逃げた。
11/24/2024, 3:33:33 PM