平良まち

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 下駄箱から溢れかえった手紙を前にSは途方に暮れた。
 漫画かよ。今日日漫画でも見ないだろ。

「いくら俺の顔がいいからってさあ」

 こんな時でも自尊心の高いおまえのことは嫌いじゃない。
 形のいい眉がひそめられ、半開きになった口が逃げ場を求めるようにわなないた。
 スマートフォンを片手に電話口と下駄箱を交互に見つめる間にも手紙は嵩を増していく。鳩レースの伝書鳩が猛烈な勢いで箱から飛び立っていくみたいに、白い紙切れが舞っている。降り積もって、廊下中に散らばっていく。

「休んじゃおうかな」
「安息日は四日後らしいけど」
「そっちの宗派じゃないって」
「じゃ、休めば」

 Sは通話する相手が目の前にいるみたいに囁いた。

「今日は休ませてもらいますんで」

 天井まで届くほど盛り上がった白い山がぴたりと止まる。
 『神様へ』と書かれた膨大な手紙が下駄箱の中に吸い込まれていった。きれいになった下駄箱からSが真っ白なシューズを取り出す。

「今日はあなたが神様ということでいいですか? はい、できるだけ仕事を終えてくれると俺は嬉しいです」

 通話を終えて、靴のかかとを潰しながら昇降口を降りていく。バイトで一仕事終えたような身軽さで。

「おまえって何者……」
「神様?」

 神すら見惚れる美貌で権能を貢がれたSは、下々に宣言するかのように胸を張ってから吹き出した。

「似合わないな」
「サボってるしな」
 


4/14/2023, 2:56:37 PM