【空模様】
「良くないね」
先輩は屋上でセミロングの茶髪を風に靡かせながら言う。彼女は空模様を見ているようだが俺は風に乗る雨の香りで天候が崩れる事を察知していた。
「傘持ってなかったりします?」
俺はそう問い掛けると振り向いてから先輩は笑った。
「君は面白くないね。そういう事じゃないのさ。まぁ、濡れるのは嫌だけども。」
この先輩は独特な方で感性が人と違う。それは理解しているが違う事を理解しているだけで彼女自身の事は全く理解出来ない。どんな返答が欲しかったのか考えるがそれを読まれたのか彼女は言葉を発する。
「ファニーな存在になろうとしなくても良い。日常会話に面白味を求めようとはしてないさ」
日常とは面白いとはイコールではないとでも言いたいのだろうか。分からなくもないけれども中々に哲学的な事を仰ると思った。
「君の問い掛けの答えになってなかったから改めて。傘は持ってるよ。家から持ってきた傘と鞄の中の折り畳み傘。万全さ」
「本当に万全ですね」
「君は?忘れたなら相合傘でもしようか?」
「…はぁ!?」
俺が大声を出すと彼女はまた笑った。顔に動揺と照れが露骨に出ていたのだろう。それが面白くて仕方がないといった所なのだろう。
「色も知らないお子様なのに頭がピンクで申し訳ないですね!」
ムキになって言う。要は童貞という訳だが先輩に『童貞で悪かったですね!』とは恥ずかしくて言えない。そんな言葉であらやだなんて言う乙女な性格ではないのは重々承知なのだが引け目を感じるから無い頭を捻って言葉にした。
「君はオカルト部じゃなくて文学部にでも入部した方が良かったんじゃないかな。配慮を感じる良き言い回しだ。ふふふっ」
そう。俺はオカルト部員でこの先輩はオカルト部の部長。感性が特殊なのはオカルトに傾倒しているからだ。まぁ、この部に属しているのだからオカルトを否定はしないが。オカルト抜きでもこのお方は特殊とまで考えたが絶対に口にはしない。
「くくくっ、変人に付き合ってくれてありがとうね。そして…。」
「甘酸っぱい感情を向けてくれるなんて照れるじゃないか。趣味は悪いけど。」
それだけ残して彼女は屋上から去っていった。色々と思うところはあるけれどもまとめた結果は俺のこの気持ちは恋心じゃないと否定したいのと照れるだなんて大嘘を吐くなんてという呆れだった。
「俺が先輩の事を好いてる…。」
尊敬だよこの心はと、思っていたら頬に冷たい感覚がした。空は真っ黒で次の瞬間には雨が降り始めた。慌てて室内に逃げ込んで難を逃れた。
「…降られるとフラれるで掛けてるつもりかよ」
変な悪態をついて俺は階段を下っていった。フラれてるのかこれとか思ったのは蛇足の蛇足。
8/20/2024, 6:32:28 AM