阿吽の呼吸というものがある。
付き合いの長さで相手が大体何を考えてるのか、何をしようとして、なにが言いたいのか分かるからそれに合わせることができるとかいうやつだ。
俺はあまり喋るのが得意じゃない。あいつはよく喋る。いつもヘラヘラ笑って俺の周りをくるくる回ってくだらない事でも俺の反応を得ようと沢山俺に話しかけてくる。
鬱陶しいなと思いながら、別に本気でそう思ってるわけじゃないから放ってる。そんな関係でずっと長く続けて、あいつは段々俺に慣れて、俺もあいつにだんだん慣れて、阿吽の呼吸の様なものが取れる様になってきた。
『その時』もそうだった。
あいつのいつものヘラヘラした態度がその時は珍しく鳴りを潜めて(ああ、たまには一人で居たい時もあるか)と思って離れようとした。
がくんと何かに引っ張れて動こうとした足がたたらを踏む。
なんだよ、と後ろの奴を振り向けばあいつはこちらも向かずに前を向いたまま服を掴んでいた。仕方なく元々座っていた隣に座り直す。隣にほんのりと温もりを感じた。
言葉はいらない、────ただそばにいて。
8/29/2024, 12:35:36 PM