「結菜ちゃんはお家に帰ってやりたいことある?」
どう、なんだろ
私は、生きてる大半の時間を此処で過ごしている
例え家に帰れても直ぐに此処に戻ってきてしまう
お家の時間、学校の時間は私にとっては遠い将来の様に思えたし
むしろ実現するかもなんてことすら考えたこと無かった
いまさら、、
嫌、考えよう
なぜだか考えないと得られないものが在るような気がした
うーん、なんだろうなぁ
………………………。
………………………。
そのまま1時間経過…
え、嘘!なんも出てこないなんて事有る?!
いっやぁ、割と出てくると思ったんだけどなぁ
ん?
………何か聞こえる
あれは…話声?
私は、耳をすました
「ねぇ、遥。もう少しで出られるけど行きたいところある?」
あれは……遙?ちゃんのお母さんかな
カーテン越しに聞こえる声を頼りに人物を特定する
…………此処では何度もやってきた事だ
「久しぶりに家族皆でゆっくり映画でも見るか?」
察するにあれはお父さん
「頑張ったね、遥」
お父さんより声が若いって事はお兄ちゃんかな
…………………。
私はすかさず更に誰も入って来れないように、
全てが、聞こえなくなるようにカーテンレールを最後までしめた
さっきの答えが出た気がする
私、期待してなかったんだ
私のことから目を逸らす様に仕事に打ち込む母に
私に必要なお金から目を逸らす様に家を出ていった父にも
どうせ無理なんだろうなってどこかで諦めてたんだ
まぁ、今も期待してるかしてないかと言われれば1mm足りともしていないが
なんでだろう、溢れる涙が止まらない
誰にも気づかれないように布団の中に更に潜る
私のお母さん達は此処に来てくれたことが一度も無い
初めのうちはお仕事が忙しいんだろうなと本気で思っていた
有る時お母さんが1人で来た
そして一言、言って帰って行った
今でも鮮明に覚えてる
『お父さんさんとはもう会えないから』
あの時の絶望した顔。忘れられるわけが無い
私が思うにお母さんは父の代わりに、私に必要なお金を稼ごうとしているんじゃなく
否、稼ごうとしてはくれてるか、
でも、それよりも大きい理由が有ると思う
家が裕福になれば父が戻ってくると本気で思っているのかもしれない
やめて、私が全部悪かったから
やめて
やめて…………私を…独りにしないで
毎晩孤独の波に押しつぶされそうになる
あぁ、それこそこの孤独に病名がついたら幾分か救われるのかな…なんて
生きてるだけでも苦しいし
家族とかも良く分からないし
趣味で描き始めた絵も将来儲からないだろうし
考えたって分からないし
ここからの進み方教わらないんだよ
……でも、映画は好きだな
小さい頃からここでの暇つぶしに見ていたし
映画だけは見たいかもしれない
死にたい。どうしようもなく
誰も助けてくれないと知っていて未だ助けを求めるこの行為が如何に愚かで矛盾していて救いようがないと知っていてもやめられない
私は、いつもそうだ
期待、しちゃうんだよ
この世に人間がいる限りは期待しちゃうんだよ
其れ普通じゃ無い?
だから助けて
私を救い出して、誰か、誰か、誰か
もう疲れたのっ!!!!!!
私が叫びそうになるのと同時に、カーテンレールが少し開いて閉じた
その音で自分が声を出そうとしていることに気づき急いで口を塞ぐ
入ってきた人物は見なくても分かる
「一応声はかけたのよ?
それより結菜ちゃん、さっきの宿題の答え。出ましたか?」
何時もならできるお道化を今日はできる気がしなかった
する気にすらならなかったのは自分の涙で濡れたシーツを見て女々しいと感じたからかもしれない
それでも、涙を拭って精一杯の笑顔を作ってこういった
「医師(せんせい)、オススメの映画、ありません?」
医師は私を抱きしめた
私は医師の頬が濡れている事に気がつか
なかった
医師のこのハグの理由も
さっきの家族の会話も
お家時間にやりたいことも
さっきまで感じていた孤独も
何一つ分からなかった
いや、分からなくて……良かった
気づけば私の頬も濡れていた
ただ一つ、わかったことがあった
暖かい
これは
否、其れは私が初めてご飯の味がした日のことでした
5/13/2023, 10:32:05 PM