海へ行こう。
林が思い付きを口に出してしまったらもう止まらない。
気付いたら俺たちは海辺近くのコンビニで、車を止めるついでに買ったシャンメリーとゼリーまで持って、浜辺に突っ立っていた。
「なんでシャンメリー?」
「いやあ、俺は帰りの運転で飲めないじゃんか。でも海って言ったら酒じゃない?」
「それはお前だけだ。」
年末だしコンビニにもシャンメリー置いてて良かった〜、なんて言いながら、早速プシュッと栓を開けるバカ林を横目に、ため息を吐きながらポケットをまさぐった。
年末の寒い海に人なんて居ないだろうし、まあ良いかなと、携帯灰皿にひしゃげたタバコだけ持って出てきてしまったが、しまったな。
肝心な"アレ"が無い。
「なぁ、お前さ……」
「あるよぉ、フレイム。はい、ファイヤー」
「火を一々言い換えるなうざったい。」
食い気味で渡された、ずっしりと重いジッポには龍が描かれており、フレイムファイヤーといい、中学生みたいなセンスだなと思った。
この一本、二本のためにクソ寒い中こいつに付き合って出てきたのだ。
大学の喫煙所にいつも漂ってる教授の加齢臭とは違う新鮮な空気と、煙たい空気を同時に吸い込むと、身体に悪いはずなのになんだか健康な気分になってしまう。
変人教師だとはいえ、風呂に入ってない自慢はしないでほしい。その内、最前列と通路側に誰も座らなくなっちまうぞ。
なんて事を考え、最後の煙を吐き出しながら、革製の携帯灰皿で火を潰すと、隣からオレンジゼリーが差し出される。
黙って受け取り、フィルムを剥がしたが、プラスプーンもない事に気がつく。
「スプーン無いんだけど」
「俺も」
スプーンが無いというのに、林はシャンメリー小脇にグレープゼリーのフィルムを真剣な面持ちで剥がしている。
「こうするんだよ」
林は見てろとばかりに、軽く掲げたグレープゼリーにかぶりついた。
鼻にシロップが付いて、後で痒くなりそうだなと思ったが、俺も手に持ったゼリーをこのまま持ち帰るなぞしたくないので、仕方なくゼリーにかぶりつく。
口に残った苦味が、甘味で浄化されていくようだ。
途中からは2人して、カップを揺すっては無理やり啜るを繰り返し、中々の大きさのゼリーを食べ切った。
「カップ出して」
空のカップを差し出しながら林が言うもんだから、「俺が捨てるのでここに重ねてくれ」という事かと思い、自分のカップをほいと渡したら「違う」と言われた。
シロップでベタついたカップを返され、そのまま持っていると、そこにシャンメリーが注がれる。
「乾杯」
憎らしいドヤ顔だ。
8/23/2023, 3:10:37 PM