「こんにちは、」
無機質な部屋に柔らかな女性の声が響き渡る。
「楓くん、体調はどう?」
「別に…」
楓と呼ばれた男性は窓から視線を逸らさずに無愛想に答える。
ニュースキャスターも笑ってしまうような、澄み渡る程の晴天の日だった。
「もー、冷たいんだから。」
困り顔で笑いかけながら女性は部屋へと足を踏み入れ、ベットに腰かける。
「……」
なおも視線を逸らさずに窓の外を見ている。
彼女も彼にならい、窓の外へと視線をなげかけると、
青々と天へと背を伸ばす植物が目に飛び込んできた。
赤、青、黄色_暴力的な程のビビッドカラーな花は彼の目を痛ませはしないのだろうか。
「ねぇ、」
どこか儚く危うい、青空と溶けてしまいそうな彼へと手を伸ばす。
ぎしとベットが音を立てた。
「ねぇってば、」
もはや彼のものでは無い柔らかな髪を撫でると、ようやくこちらを振り向いた。
「…うるさいなぁ、」
重たそうに点滴のついていない腕を上げ、弱々しいでこぴんを与える。
彼の照れ隠しの癖だった、彼は不器用なのだ。
「む、やったなぁ〜?」
わしゃわしゃと髪を撫でると、「俺は犬かよ」と小さく不服そうな声をもらした。
ひとしきり彼を堪能すると体を離す。
「ふふ、前よりも元気そうだね。」
「どうも。…で。何の用で来たの?今日平日だし、お前仕事は」
「え、今日は平日じゃないよ。土曜日だよ」
その言葉に彼は一瞬傷ついたような顔をし、またいつもの顔に戻りシャレを飛ばした。
"この病気のせいで、世間に置いていかれる気がするんだ"、と彼はいつぞやに語っていた。
「あれ、そうだったか。…ずっとここに居ると感覚が…夏休みの小学生の気分だ。」
「一言日記でも書いてみる?」
「バカ言え、俺の辛気臭い日記なんて誰が読むんだ。」
「私が読むよ。」
8/2/2023, 12:05:15 PM