NoName

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わたしは、暗いところが好きだ。
特に、1人でいることが。
だからわたしは、夜寝室から抜け出して、
三階へ行った。
三階の電気は消して、暗くした。
本当は二階へ行きたかったのだけど、
二階のわたしの部屋への道の間に、
ドアが開けっぱなしの若い祖父母の部屋があり、
電気がついていたため、帰るにも階段を
降るのは上より大変なことだったし、
三階へ来るしかなかった。
話し声が聞こえて、ドキドキした。
「猫ちゃん見てないな」
「外でたかなぁ?」
どうでもいい話だった。
とにかくはやく寝て欲しかった。
「上ちゃうか」
一気に心音が鳴った。

昼ご飯の時私は、猫ちゃんが三階へ行った話をした。そこに猫ちゃんが吐いてしまったと言う話。

無視しておけばよかったな、
今更思っても遅いけど。
階段を登る祖父の足音が聞こえた。
踊り場に頭が見えた。
–殴られるのかな…
 怒鳴られるだろうな
どうしようか どうしようもないけど

持ってた携帯をズボンに挟んで長いTシャツで隠した。
サイレントモードにした。
携帯を持ってることは祖父母には内緒だから。
取り上げられるだけだから。

身構えた。

祖父が上がってきた。
怒鳴り声が聞こえた。
セリフは一部しか覚えていない

「なんでこんな真っ暗にしておるん!
 暗いところに潜んでるのおかしいやろ!?
 こんな暗いところに潜む人と一緒に住みたく
 ない!

 早よ行き」

無言で頷いた。涙さえ麻痺した。
震える手足で音を立てないように階段をかけ降りた。
一階。わたしが寝る部屋も一階。
だけど、
和室に入った。
暗いところに、と言う条件を満たさないように
机の電気をつけ、椅子に座った。
うつ伏せた。泣けてきた。
こんな危険を冒してまで
わたしは、ひとりでいたかったのだろうか。
祖父は一緒に住みたくない、と言っていた。
わたしは中学だから、まだ家に居られる、
だけかもしれない。

祖父母と一緒に住んでるのは珍しいのかもしれない。
両親が、わたしのことを考えて離れて、
母親と妹と一緒に、祖父母の広い家に居る。
わたしは、この家には居たくなかったけど、
子供だからどうにもできなかった。

祖父母は、わたしの母親に、文句を言う。
母親は、祖父母の前では暗い。
理由は知らない。
けど、話さないし、うんとは言うけど、
無表情で、怖い。
祖父母は度々、この家の広さを悪く言う。
それで、

この家売って、小さい家にすもっか?
あなたは、ママと一緒にアパートにでも住んだら?
ママもずーっと働いてさぁ

とか、冗談だよ、と言うけど、
頻繁に言うので信じられない。
会話だけでも耐えられない苦痛になる。

わたしだって好きでここに居るんじゃないのに。
ママだって、働いてるのに。
そして祖母は専業主婦だ。
働いたことなどない。
祖父は塾をしている。
無駄に論理的思考力がある。
それなのに、頭の悪いことを言う。
今のわたしは、祖父ごとき
簡単に論破できると思う。
殴られるからしないけど…
祖父の口癖は、「正解」「頭悪い」「普通に考えて」
あとは、
ママの悪口ばっかり。
祖父には口が裂けても言えないけど、
今の祖父は正解な訳がない。
聞いた話だけど、
祖父は昔、たくさんバイトして、それで
この広い家を買ったらしい。
塾を始めた理由は、もうすぐ地球が終わると噂されてたから、らしい。不正解だ。頭が悪い。普通に考えて、一生懸命貯めたお金をそんなことに使わない。
地球が終わる根拠がどこにあった。
まず、その時塾を始めて何ができる。
せめて意味のない募金に回す、とかの嫌な思考のバカの方がまだよかった。
というか地球が終わるってなんの話…

専業主婦の祖母は、働いたことないのに仕事の大変さを語る。こっちは本当に頭が悪い。
嫌な記憶力だけはあったようで、
過去のわたしの反抗と嫌な部分はわたしよりも覚えていた。
誕生日にもらったプレゼントなんて、
「見せて」というくせに、次の日には
「なにそれ、どこのんよ」と聞いてくる。
挫けそうになる。
祖父母は、他から見ると若くて羨ましいとか言われるが、あり得ない。
代わってあげるよと言われて、代われるとしたら、

断る。相手が可哀想だから。
今まで優しく育てられた相手なら余計に。
わたしはもう

いいから

遊びはやめさせられ、
「協力してよ」
と、わたしは何も頼まれてないのに、
手伝ってくれない、とか顔が怖い、とか、
理不尽に怒られる。

妹はそういうことがわからなくて、
何か言われることが多くて、
見たくないからわたしは、
ひとりになる。

祖父母から逃げたい。
妹から逃げたい。
母親から逃げたい。
大切な人が祖父母によって、
わたしの中の大切な物が祖父母に壊されて、
それでぐしゃぐしゃになって、
破片が刺さって、突き出て、
これ以上傷ついてほしくないから、
なんとか守って、
守りきれないときはにげる。
1人になることが一番だった。
暗いところがすき。
自分の顔も、家の様子も、
辛いことが何も見えないから。
1人でいるわたしを傷つけないで

だからわたしは1人でいる

7/31/2023, 3:00:28 PM