午後5時の鐘が、町の上空で鳴り響いた。
仕事帰り、いつもの商店街歩く。アーケードの蛍光灯はまだ点いておらず、夕陽に照らされたシャッターが錆びて光っていた。
後ろから知らない子どもたちが走って追い抜いていった。ランドセルを背負い、皆汗だくの顔で騒ぎながら。いいな、お気楽で。今日の仕事の嫌な記憶がよみがえり憂鬱になる。
ふと思い出す、同じようにここを駆け抜けた記憶がある。
何十年前の8月31日午後5時。夏休みの最後の日。宿題をやり残したまま、友人たちと駄菓子屋に走った。あんなもん知らねーと強がっていたものの、内心焦っていた。先生に怒られるだろうか、親にバレるだろうか。仲間だと思っていた友人は皆ちゃっかり終わらせていた。同じように毎日遊んでいたはずなのに、勝手に裏切られた気分だった。
そう、あの時もまさに同じように、スーツを着た仕事帰りの風貌のサラリーマンとすれ違った。その時何気なく思ったんだ。いいよな大人は大量の宿題とかなくてよって。勉強しなくていいし決められたお小遣いも門限も無くていいよなって思ったんだ。
じゃあ今も思われたかもな。あの子達の誰かに。俺も何も知らないくせに悪かった。お互い頑張ろうな。
もう小さくなった背中に向かってそう思った。あと昔の自分にも。
8/31/2025, 10:52:05 AM