【小塚悠代 こずかゆうだい】×【栗原都子 くりはらみやこ】
「『赤い糸』ってあると思いますか?」大学の先輩で仕事の相棒である小塚さんにそう聞いてみた。リアリストな彼はどう考えるのかが知りたかったからだ。
「『赤い糸』ですか。僕が思っているよりも、君はロマンチストなんですね。」パソコン作業をしながら、彼は答えた。目線は私ではなくパソコンに向いている。
「だったらなんですか?私は人並みにロマンチストですよ」
「そうなんですね。……赤い糸とは、運命の赤い糸とかそういうやつですよね」
「そうですよ」そう私が言うと、彼はやっぱりパソコン作業をしながら答え始めた。リズムよくタイピング音がなり続ける。
「僕は、運命の赤い糸はあると思います。それはロマンチックなものじゃなくて、イメージは、神的ななにかがこう、糸を引っ張って関わる人を選んでる感じ。です。」
「へー。特殊ですね。気持ち悪」私は浮かんだ感情を包み隠さず伝えた。私が期待してた回答とは少し、いいやかなり違った。私は『無い』とか、『君と出会えたから運命の糸はある』とかそういう回答を期待していた。
「自分から聞いたんでしょう?」
「そうですけど、なんかこう、もっと夢があるイケメン彼氏みたいな回答を期待してたんですけど…」
「イケメン彼氏って、あなたそうゆうキャラじゃないでしょう」タイピング音は止まずになり続けている。
「まぁ。ていうか、さっきから小塚さん私のことあなたあなたって、せめて名前で読んでくれませんか?」私は、座って作業する彼に近づいた。パソコンばっかりで少しムカついたからだ。
彼は作業をする手を止めて私を見つめ始めた。少しドキッとした。顔はタレント並みに整っているし、好みの顔に見つめられたらドキドキするのは当たり前だ。
「…小塚さん?あの…」気まずくなって話しかけた私の頬に右手を伸ばして、彼は微笑んだ。まるで猫を愛しいと見ているように。
「…僕は、栗原さん。いいや都子さんと出会えたのは、運命の赤い糸のおかげだと思ってますよ。」顔色を変えず、むしろイケメン彼氏そのもののように、彼は嘘を言ってのけた。私は夢でも見ているかのような錯覚に陥った。「で、どうですか?」その言葉で私は現実に戻った。
「おぉ、流石小塚さん。大学時代、女の子誑かしてただけありますね。流石イケメン」自分がドキドキしたという感情を悟られないように、そうふざけって言った。彼が大学時代、女の子を誑かしてたという事実はない。
「ありがとうございます」
「否定してくださいよ」
「否定する必要あります?」
「無いですね。」
「でしょう。」
「そんなことより、また呼んでくださいね。都子って」運命の赤い糸とか関係なく、小塚さんに名前を呼ばれるのは嫌いじゃない。私は呼ばないけど。『悠代さん』なんて恥ずかしくて言えないけど。嬉しかったなんて、好きだなんて、私は言いませんけど。
6/30/2023, 1:43:19 PM