姉の背中に隠れてこちらを伺う姿ばかりが印象に残っている。姉に促されてやっと名前を名乗ったかと思えばすぐさま隠れてこちらの反応を気にする姿がどうにもいじらしく、庇護欲のようなものが自分の中に芽生えるのを感じた。
「____!」
だから、姉から離れてひとりでこちらに声を掛けたことにすこぶる驚いたのだ。
こちらを見る目に以前のような怯えや気まずさはなく、ただ真っ直ぐに射抜くように見つめられてこちらの方がたじろぐくらいだった。
「何か用かな」
動揺を悟られぬように返事をした。何を考えてるか分かりずらい、と周囲から苦言を呈されるこの仏頂面もこの時ばかりは役に立つ。
「わたし、勝ちます」
「あなたには絶対に負けません」
強い意志の籠った瞳だった。言いたいことだけを伝えて颯爽と去る背中をなんとなく見つめていた。1週間後に控えたトーナメント戦の話だ。今は予選の最中で、彼女は順調に駒を進めているらしい。
入学当初の印象と今では随分と印象が異なる。それは自分だけでなく他の生徒も感じていることで彼女の噂はあまり聞いていていいものでは無い。
恐ろしい、と思った。
彼女は間違いなく決勝まで来るだろう。予選の試合の鬼気迫る様子を思い出して冷や汗が頬を伝った。強者揃いの決勝を進み、そうして私の前に
立ちはだかるに違いない。あの強い視線で見つめられることが、何よりも恐ろしい。
私は彼女のことを見誤っていた。力のない、有象無象の一人だと侮っていたのだ。自分を脅かす存在にはなり得ないと。しかし、現実はどうだ。
彼女は臆病者ではなかった。ただ虎視眈々と周囲の様子を伺いながら機会が来るのを待っていたのだ。
私を玉座から引きずり下ろす、その機会を。
3/17/2024, 7:00:55 AM