今まさにそれを手にし、懐に入れた途端、背後からいくつもの冷徹な視線を感じた。
私はあまりの視線に耐えられなくなり思わずその場から立ち去った。
いくらか歩いて町をまたいたが、私は誰かに見つめられている気がした。私はキョロキョロと周りを見渡した。ある人は私とすれ違い、ある人は私を追い抜き、ある人達は何かを話していた。
きっと彼ら彼女らの中には私を見つめているに違いない、つけ狙っているに違いない、そう思うと私は早足で人気のないところへと立ち去った。
日が落ちて暗くなり、ライトが明かりを灯す頃、私は人のいない通りまでやってきた。ここなら誰にも見られないだろうとそそくさと歩いていた。
だがしかし、またどこからともなく視線を感じた。私は街灯に差し掛かったところで思わず立ち止まった。本当はこんなところで止まってはいけないのだが、私は勇気を持って背後を振り返った。
しかしそこには誰もいなかった。恐らくは私が立ち止まったときに逃げだしたのだろう。私は小走りで自宅へ向かう。
ついに自分の家へと帰って来ることができた。だが安心はできない。誰かが私をどこからか隠しカメラで監視しているのかもしれない。私はゴミ箱や戸棚などを漁ったが、それらしきものは見当たらなかった。というよりも私には隠しカメラの知識がなかったため、皆目検討もつかなかった。
私は不安の中疲れ果て、そのまま眠ってしまった。
何かがポストの中に入った音がした。
私はその音を聞くとすぐさま起き上がり、ポストの中にある新聞を取り出した。今日の一面をすっ飛ばし、その新聞に書いてある数字を見つめた。
ああ、また外した!
思わず新聞から視線を外したとき、あの冷え冷えとした視線がなくなり、安心感という温もりが帰ってきた。
今年の春も暖かい。
見つめられると
3/28/2023, 1:02:42 PM